第9話
間違えて先ほど8話ではなく、先に9話を投稿してしまいました。
ご迷惑かけてすいません、もし8話を見ていない方は一つ前の話を読んでいただければと思います。
二人に案内をしてもらい、無事に街の外へ繋がる大門までたどり着くことができた。大門の手前には大きな広場があり、必要とあればここで案内人を雇って中心街に行くのが基本とのこと。
帰りは案内人でも雇おうかと悩んでいたら、エイサの方から道を案内すると申し出てきた。その代わり二人を斬らないことが条件で出されるが、斬る相手には今のところ困らなそうなので了承する。
全ての憂いを取り除いた俺はさっそく大門をくぐり、外の世界に足を踏み出す。
城壁もなく、開けた夜空には満天の星が輝き、柔らかな月光が草原を優しく包み込んでいた。銀白色に照らされた草の穂先が風に揺れ、静かにささやく音が耳をくすぐる。遠くにはなだらかな丘が影を落とし、その背後に立つ木々が黒いシルエットとなって夜空に浮かび上がる。
柄にもなく感慨にふけってしまう。昨晩も思っていたのだが、この世界の月の光は元の世界よりも明るい。もともと夜だからと言って視界に困るようなことはないのだが、この月明かりさえあれば日中と変わらない活動ができそうだ。
街の近くでは魔物がいないようなので歩き続けること数十分。どこか遠くから、かすかな羽ばたきの音が風に乗って聞こえてくる。あえて音に向かって行くと、その音は次第に大きくなり、低く唸るような音に変わっていった。
見上げると、黒い影が夜空を埋め尽くすように広がっている。蝙蝠だ。無数の蝙蝠が、漆黒の波となってこちらに向かってきていた。
だが一点、前世の蝙蝠と大きく異なる点がある。それは大きさ。両腕で抱え込めるかどうか、そんな大きさの蝙蝠が数えきれないほど集まり、群れをなしていた。
こいつら、ギルドの掲示板に乗っていたな。たしか……ナイトバット? 大規模な群れを作る前に間引きすることって聞いてたが、これはもう大規模だろ。俺へのサービスか?
ひとまず、360度の全方位から襲われるのを避けるため、こっちから群れに飛び込むのはなしだな。むしろ距離を取りつつ、背面や側面に回り込まれないように走り回りながら斬るか。
ちょうど脳内の討伐計画を立て終わったタイミングで、群れの先頭がこちらへ向かって飛び掛かってきた。身体の大半を占めている大きな口の中には巨大で鋭い牙が並んでいる。
瞬時に腰元から剣を引き抜き、一刀のもとで斬り捨てる。一匹の対処に少しでも手間取ると別の個体に噛みつかれるため、一振りで複数の個体をなぞる様に剣の軌跡を選びながら、集団との間合いを調整て後続と斬り結んでいく。
いやー、楽しいな。一手間違えると致命傷のようなリスクを抱えながらも一方的に斬り続ける。この感覚は非常に癖になりそうだ。さらに手ごたえが人間とは大きく異なり、触感ならぬ斬感もいい。
「それにしても、こいつらの単体での討伐推奨ランクは1だと思ったんだが、これで本当に1か? なんだか硬すぎる気がするんだよな。」
ナイトバットの討伐推奨ランクは単体で1のルーキー向け。群れの規模によっては4の中堅で対応すると聞いている。俺が修練場の地下で見た感じだと、この蝙蝠の鉄のような身体を斬れる人間はほぼいない印象なんだが。
疑問に思いながらも今は関係ないので順番に斬っていく。徐々に飛ぶ斬撃も交えるようにして討伐のペースを上げると、あと半分のところまで進んできた。
残りを派手に一太刀で片付けようと考え始めたところで、蝙蝠たちが宙に集まり、球体のような陣形を取り始める。
何を始めるのかと大人しく見ていると、突如として球体の中心から強い違和感、魔力の気配が溢れ出す。
一拍置き、蝙蝠たちが魔力の元へ押し潰される様に集まり、一人の人間の形をとり始めた。
先ほど感じた魔力をこの人間もどきから感じる。長い白髪に赤い瞳、通常の人間では考えられない異様に長い犬歯が特徴的だ。
宙に浮かぶ様に現れた男はゆっくりと地上に降りてくる。周囲を見渡しながらこちらへ近づくと偉そうに喋りだした。
「貴様か? 吾輩の眷属に手をだしたのは?」
「眷属? あの蝙蝠のことなら斬ったのは俺だな。」
こいつ……ジンほどではないが強いな。少なくともダルマの旦那と同等かそれ以上か。
「そうか。ならばその命をもって償え。
……血の嘆き」
伸ばした男の右腕から赤い稲妻が迸る。その一撃は速く、広く、重い。
「ちっ……!?」
一瞬で目の前に迫ってきた稲妻を咄嗟に斬り裂く。それにより直撃を避けるも、予想外の重みと散らばった余波により体勢を崩す。
「人間無勢が……」
当然こちらもただではやられない。体勢を崩しながらも二の太刀へ繋ぎ、斬撃を飛ばすことで男の胸元に大きな裂傷を与える。
その隙に体勢を整え、追撃を加えようとするも男の様子を見て足を止める。
「へぇ……便利な身体してるじゃん。見た目通り人間じゃないのか。」
さきほどの傷口を覆うように血が纏わりついたかと思うと、一瞬のうちに何もなかったかのように傷が消えている。
「ふん。貴様らのような下賤な生き物と一緒にするな。我々、吸血鬼一族に傷など残るものか」
吸血鬼……ねぇ。どっかで聞いたことあるな。
まあいい。それじゃあ、一体何度斬ったらその表情が変わるのか、試させてもらおうか。




