第1話
斬り足りない。
斬るのが好きだった。斬れれば何でもよかった。何でも斬りたかった。
戦争は良かった…… 斬っても斬っても斬る相手に困らない。問題はその後、戦争が終わっちまったことだ。廃刀令? 馬鹿馬鹿しい。誰にも俺の刀は奪わせない。
丁度いい機会だ。一度、国とやらを斬ってみたかったんだ。
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全身は赤く染めあがり、もはや自分の血と返り血の区別もつかない。身体が重いのは流した血か、衣服が吸いあげた血液の重みか。起き上がることもままならず、首の動きのみで周囲を見渡す。見上げるだけで首がもげそうになるほど大きかった城も細切れになり、今はもう見る影もない瓦礫の山となっていた。
偉そうにしていた将軍も、威圧するかのような天守閣も、それらを守る元同僚達も全て斬り捨てた。でも満たされない。斬り足りない。満たされぬまま視界がどんどんと暗くなっていく。
「全部、全部。こんな世の中……何もかも斬り捨ててくれよ。」
視界は暗黒に包まれ意識も消え失せる寸前。最後に聞こえてきたのは遥か昔、名前も身分も存在すら許されなかった幼少期に託された一つの願いだった。いや、願いと呼ぶには物騒すぎて呪いの方が相応しいか。
そういえば、あいつだけは斬りたくなかったな。思い出すかのように笑みを浮かべると、その場に相応しくない満足げな表情のまま胸の鼓動が終わりを迎える。
こうして國墜と呼ばれた最凶最悪の辻斬り、東堂閃花の人生は幕を閉じた。
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「……ってぇ」
朦朧とした意識が頭の痛みで現実へ導かれる。ガンガンとカチ割れそうな痛みに耐えながらも片眼を開いて周囲を見渡すと、見覚えのない景色が視界に広がっていた。
「いったい…… ここはどこだ……?」
天井と周囲は薄汚いボロ布でできた天幕で囲われており、床は整地もされていない野ざらしの地面。見た目通り匂いは最悪。ガキのころを思い出して気分が悪い。
牢屋……ではないな? 雰囲気がおかしいし、何より手枷がない。
「いやまて。手枷どころか……俺の手足なんか小さくねえか? よく考えたら視点も低すぎだろ。」
落ち着け俺。落ち着け。体の様子がおかしいし、今いる場所もおかしい。理解できないことだらけで動揺しちまったが、これは良くない。戦場では冷静さを欠いた奴から死んでいく。まずは深呼吸だ深呼吸…… フー。
頭痛も和らいできたので、落ち着いて現状を整理する。
まず一つ目、俺の記憶が確かなら俺は死んでいるはず。あの傷と出血で生きているとは到底考えられない。
二つ目、身体がおかしい。パッと見た感じ、どう見てもスラムのガキだ。記憶の身体と一致しない。
三つ目、思考回路がおかしい。俺が理解している俺の性格なら動揺よりも先に警戒と索敵だ。咄嗟の呼吸法も素人そのもの。何かに思考が引っ張られてやがる。
ひとまず周辺から人の気配がないことを確認すると、胡坐を組んで忘れていることはないか記憶を振り返る。すると閉じた戸棚を開いて中身を取り出すように、自分ではない自分の記憶が呼び起こされていく。
……なるほど。元々のこの身体のガキは高熱を出して死んだっぽいな。そんでその身体で何故か俺の意識が目覚めたと。これが噂に聞く転生ってやつか……?
よし、理屈は不明だがこんなもんだな。思考や口調が引っ張られるのも元々の持ち主であるガキの意識の影響か。
「それにしても面白い世界だな…… 魔術に魔物。こりゃあ斬る相手には事欠かないな」
記憶を探る限り、どうやらこの世界には前世では御伽噺だった存在が数多に存在する。そしてそれらを狩る職業、冒険者とやらがあるらしい。ひたすら戦っているだけで飯が食えるなんて最高の仕事かよ。
ただ問題が一つ。冒険者は身分を問わないが、登録料が3万ゴールド必要となる。3万ゴールドは平民の一か月分の食費ってところだ。この身体のガキも冒険者に成ろうとしていたようだが、登録料が稼げずのこの有り様。金で身分が手に入るだけマシな世界だと思うが、弱者の末路はどこでも一緒だな。
とりあえず登録料稼ぎに何か適当に斬りに行こう。何人か斬り殺せば金も溜まるだろ。
ウキウキとした気持ちで腰元に手を伸ばすも、いつもの刀がないことを思い出して肩を落とす。ひとまずは新しい獲物探しかぁ。