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4話 ワインレッドの光


 パッと現れた『ナクト』の画面に映るその男は楽しそうに笑っている。カラカラになった喉を潤そうと体が勝手に唾を飲み込んだ。


天助てんすけ……なんでおまえが……」


 怜奈が一緒にいた男、椋木むくのき天助。それは紛れもなく僕の弟だった。







 人込みを抜けると待ち合わせの場所が見えてくる。天助くんは先に着いていたようで、壁にもたれながらスマホを見ていた。その整った顔立ちはコーヤと良く似ている。でも弟の方がより多くの優秀な遺伝子を受け継いだのか、天助くんは頭脳明晰、スポーツ万能。おまけに明るい性格でコミュ力も高い。


「お待たせ~テンくん。遅れてゴメンね」


「いいよいいよ。怜奈が遅れるのはいつものことだから。とりあえずランチ行く?」


 笑ってそう言う彼の腕に手を回し、ぴとっと体をひっつける。私の好きな香水の香りが鼻をくすぐる。普段私もよくつける香水だから、いくら匂いが移っても不自然ではない。そもそもコーヤはそういうことは気付かないタイプだけど。


 

 コーヤに紹介された時、天助くんはまだ高校生だった。大学生の私からすれば、その頃の彼はまだまだ初心うぶな少年に見えた。でも彼が大学生になるとドンドンかっこよくなり、あっという間にイケメンへと大変身した。


 モデルのバイトを始めたと聞くと、コーヤには内緒で天助くんのSNSをフォローしたりした。たまにコーヤの実家で彼に会うとついつい意識してしまった。



 そしていつしかこっそりと連絡先を交換し二人で会うようになった。



「初めて怜奈さんに会った時から好きでした」


 そう告白された三年前のその日、私たちは深い関係となった。最初はもの凄い罪悪感にさいなまれた。コーヤとは同棲も始め、いずれは結婚も考えていた。


 ただその手の話になると、彼はきまってバツが悪そうな顔をする。バリバリ働いている私に対し、未だに夢を諦めきれない自分に負い目を感じているのだろう。


 私はコーヤが発明家になる夢を追っていることを責めるつもりはない。むしろ応援しているくらいだ。昔から、夢中で何かを作る彼を見るのが好きだった。クリスマスにもらったからくり時計は私の大切な宝物だ。


 だからこそ結婚に対して臆する彼に少しばかり不満があった。そして天助くんとの甘い刺激に満ちた関係につい流されてしまった。




「兄さんのこと考えてる?」


 昼のデートを終え、いつもの夜景がきれいに見えるレストランに私たちは来ていた。少し考え事をしていた私に天助くんが優しい口調で訊いてくる。


「う~んちょっとね。なんか今日顔色悪かったから大丈夫かなって」


「兄さんは体弱いからなぁ。風邪でもひいたのかな?」


「どうなんだろ? 最近話す時間があんまりなかったから」


「同じ家に住んでるのに? すれ違い生活ってやつ?」


 天助くんが意地悪そうな笑いを浮かべながら訊いてきた。答えに困った私はグラスに入ったワインを一気に飲み干す。


「ぷはぁ~美味しい! 今日は時間たっぷりあるからもう一本ボトル頼んでいい?」


「高級ワインをそんなビールみたいに飲まないでよ」


 そう言いながら天助くんは私を見つめ優しく微笑んでくれる。思わずその唇に目が行ってしまう。


 ああ、私は今夜もきっと情欲に溺れるだろう。その甘い口づけと共に。




 赤いワインがグラスにゆっくり注がれる。


 それは白いテーブルの上で、揺らめきながら赤く光り輝いた。


 私にはそれがまるで危険を知らせる赤色灯のように見えた。






 ☆集積装置にのっかってくださった方々、誠にありがとうございます。一個も増えなかったら、危うくマテウスさんにざまぁするところでした。

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