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不必要な僕の偉大なる発明  作者: 三毛猫ジョーラ


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35話 あゝ浮上


 緊張の糸が切れたせいもあるのか、体から力が抜けていく。水面を見つめながら後悔の念が襲ってきた。やっぱりメアリーさんが攫われたあの時、すぐに追いかけるべきだったんだ。そうすればこんな結末にはならなかったんじゃないだろうか。


「泳ぎ得意ですか?」


 突然声を掛けられ横をみると、見知らぬ美少女が自身の体にロープを結んでいた。


「あ、あの……」


「西田さんですよね? 電話で話していた椋木さんと一緒にいた者です。こっちのロープの先をそこのビットに結んでください」


 そう言って彼女はロープの先端をおれに投げ渡した。


「ビット?」


「そこの船を繋いでおくやつです。結び終わったら私は海に入るので、絡まったりしないようさばいてください」


 彼女が潜って救出に向かうということなのだろうか? とりあえずおれは急いでロープを巻き付けた。


「簡単なロープ信号だけ決めておきます。私が連続で5回ロープを引っ張ったら引き上げてください。それと飛び込んで2分経過したら無条件で引き上げてください。あとこのライトであの泡が出ている辺りを照らしてもらっていいですか? 一か所に当て続けるのではなく、ゆっくりと円を描くように少しずつ動かしてください」


 彼女がおれにライトを手渡した時、後ろからひとりの男性がこっちへ走ってきた。


「あった! あったぞーお嬢ちゃん!」


 その男性は手に救命用の浮き輪を手にしていた。


「お嬢ちゃん、本当に潜るのか? おれが行った方が――」


「もし二人が見つかった場合、引き上げ役は男性の方がベストです。それに私、肺活量には自信があるんですよ」


 そう言って彼女はにっこりと微笑んだ。まだ高校生とかではないだろうか? なのにこの状況でこの落ち着きよう。おれはどことなく彼女はメアリーさんに似ているなと思った。



「それでは西田さん。さっき言った通りでお願いします」


 彼女が靴を脱ぎ、いざ飛び込もうとした時だった。どこかで水面をバチャバチャと叩くような音が聞こえた。おれは急いで音がする方へとライトを照らした。


「いたっ! あそこだ!」


 そこには水面に顔を出しながら必死に泳ぐメアリーさんと、それにしがみつくようにしている椋木さんの姿があった。


「孔雀さん! 浮き輪を投げて!」


 美少女が自分に結び付けていたロープをすばやく解き指示を出す。男性が放り投げた浮き輪はクルクルと回りながら見事二人の目の前に落ちた。


「それに掴まってくださーい! 二人共怪我はないですかー!」


 彼女がそう叫ぶと浮き輪に掴まったメアリーさんが片手で大きく丸を作った。


「では岸まで泳いで来てくださーい! ロープで引き上げますからー!」


 彼女はそう言って靴を履き直していた。てっきり見つけた瞬間に飛び込むものだと思ったが状況を見て判断したのだろう。その冷静さにおれが感心していると、メアリーさんの大きな声が聞こえてきた。


「ちょっとコウヤっち! そんなにしがみつかないでよ! 浮き輪があるんだから大丈夫よ!」


「だって泳ぎはてんでダメなんだ。あぁ! ぼうばしぐあぁぁばば」


 どうやら椋木さんは泳ぎが苦手だったらしい。メアリーさんの元気な声を聞いておれは心底ほっとした。一方、美少女ちゃんは呆れた様子でハァと溜息をついていた。





 溺れそうになっていた僕が先に引っ張り上げられた。そのあと無事メアリーも岸へと引き上げられた。瀬織ちゃんが座り込む僕らにタオルを渡してくれた。


「ご無事でなによりです。でもよく脱出できましたね。車の窓、開いてました?」


「いや、ヘッドレストを使って突き破ったよ。でもその後がね……メアリーがすぐ目を覚ましてくれて助かった。危うく溺れるとこだったよ」


 僕は笑いながら頭を掻いた。瀬織ちゃんは微笑んでいたけど目は笑ってなかった。


「いい判断です。普通ならパニックになるとこですよ」


「それが不思議なんだけど、天助に殴られそうになった時から周りがスローモーションみたいに見えることがあるんだ。音が聞こえなくなって時間がゆっくりになるっていうか……」 


「ほう……たぶんそれは――」


「それは脳の処理速度が瞬間的に上がったんじゃないかしら?」


 瀬織ちゃんが何かを言いかけた時メアリーが口を開いた。


「命の危険を感じると走馬灯を見るって言うでしょう? たぶんそれと似たようなことがコウヤっちの脳で起きたのよ。ところでそちらのお二人は?」


「ああ紹介がまだだったね――」


 僕はよいしょと腰を上げ二人の方へと近付いた。


「今回メアリー救出に協力してくれた瀬織ちゃんと孔雀さん。二人がいなかったらここまで来れなかったよ」


 僕がそう言うと二人は少し照れたように笑った。メアリーは立ち上がり二人に向かって深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございました。最後は溺れそうなコウヤっちまで助けてもらって――」


「それを言われると……」


 反省してしゅんとしていると孔雀さんが僕の肩をポンと叩いた。


「なぁにいいってことよ! 二人そろって命が助かったんだ。それでめでたしめでたしじゃねえか!」


 孔雀さんが笑いながらそう言うと、瀬織ちゃんもコクリと頷いた。その時、今回のもう一人の立役者を僕は思い出した。 


「そういえば! 今回は西田くんもお手柄だったんだ。メアリーが攫われるとこを見てたのは西田くんだったんだよ」


 いつもなら「どうしてその時に助けないのよ!」とメアリーなら言いそうだけど、今回ばかりは素直に感謝していた。おまけに孔雀さんにバイクの運転技術を褒められて西田くんはとてもご満悦な様子だった。



「ところで孔雀さん。なんかすごい技出してましたけど、あれは……?」 


 僕がそう訊くと孔雀さんは一度手を叩いて人差し指を立てた。


「おお! あのフランケンシュタイナーは見事に決まったな! ちょいと若い頃にメキシコでルチャドールをやっててな。リングネームは――」


「そろそろ戻りましょうか。お二人が風邪を引いてしまいます」


 孔雀さんが両手を挙げたまま固まった。瀬織ちゃんは相変わらずマイペースだ。メアリーも思わずぷっと吹き出していた。



 西田くんはバイクで、僕らは孔雀タクシーに乗ってとりあえず現場まで戻ることにした。瀬織ちゃんが助手席に乗り、僕とメアリーは後部座席に乗ることにした。もう現場には警察も到着している頃だろう。車でしばらく行くと、道端に転がっている人影が見えた。


「あれは?」


 メアリーが僕に訊いた。そういえばメアリーは気を失っていて天助が車から飛び降りたことは知らないんだった。


「天助だ。走ってる車から飛び降りたんだ。たぶん足を折ってる」


 天助という名前を聞いてメアリーが僕の手をぎゅっと握ってきた。


「拾っていくか?」


 孔雀さんの問い掛けには僕ではなく瀬織ちゃんが答えた。


「置いていきましょう。そのうち警察が来るはずです」


「いや、停まってもらっていいですか? 少し話がしたい」


 僕がそう言うと、ライトで天助を照らすようにして車が停まった。


「一人で平気? コウヤっち」


 メアリーが少し心配そうな顔で僕にそう言った。僕はそれにあえて笑顔で答えた。


「うん。兄としての最後の務めを果たしてくるよ」



 バタンとタクシーのドアが閉まる。そして僕はうずくまる天助の方へとゆっくりと歩きだした。





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