呪いあれかし
『呪いあれ。百花の物語を紡ぎ継ぐものに呪いあれ』
あたしがロストスの廃墟で見つけた石板は、そう始まっている。知らない。こんな言葉は、原作にはなかった!!
『魔の血を継ぎし花の王、あるいはその傍らの誰かよ。お前たちがここに来る可能性はないのかもしれない。だが来たときに備えてここに呪いを残す。
ここにジョン・ロックはいない。彼の人は幸福に生き、穏やかに死に、天へと召されている。その傍らに醜い心根の化け物がいたことも知らぬまま。
我は本来の物語を知るもの。『百花のストリア3』という物語を知るもの。
ロストスの廃墟【亡霊の館】の最奥にて、花の王を待つ【礎の賢者】はいない。
遠い未来で花の王の一族と魔物の間に生まれた子が、その血に飲まれる運命を
知ってしまったものはいない。その子を救うためだけに五百年もの間、
亡霊となってこんな冷たい場所で一人きり待ち続けた優しい人はいない。
あの人はあの刃を探しはしなかった。何も知らないのだから当然だ。
血にでも何にでも勝手に飲まれていろ。お前たちの運命にあの人を巻き込むな。
魔物も、花の王も、大嫌いだ。私は異界から来た転生者。物語を知るもの。
私が救いたかったものは、世界でも人類でもなく、ただひとり。
愛しのジョン・ロック その人だけだ。
彼に五百年の孤独を与えるなど、許せるものか
カサンドラ・ロック』
あたしはへなへなとその場にくずおれる。あたし、サマンサは転生者だ。生前プレイした『百花のストーリア3』というゲームの世界に転生した。
これは一作目の五百年後の世界が舞台。一作目の主人公たる花の王の子孫でありながら魔物の血を引いてしまった青年ジュード。彼がそれでも、と新生花の守護団と共に大魔王に立ち向かう物語。サマンサはその花の守護団の一人……の妹。ジュードに憧れていたから、近くに転生できて嬉しかった。
そしてジュードのハッピーエンドに至るためには『礎の賢者』が見つけて守護し続けた『清滅の刃』という剣がなくてはいけない。その刃で彼の中の魔の血の破壊衝動を清め、滅さなくては。
だから、ここまでその刃を探しにきたのに。
「それを、なに、これ? こんな、こんな八つ当たりみたいなことされて、彼の運命は断たれなきゃいけないわけ?」
暗く冷たい石造りの部屋の中、あたしは泣くに泣けなかった。