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初めて聞く声


三日後の昼。二人きりかと思ったら彼の傍に立つ姿がある。黒い髪をした女の子。じくりと胸が痛んで泣きたくなった。

「はじめまして、シンシアです。今日はご飯ご一緒させてください」

「え、あ、はい。はじめまして、シンシア」

少し日に焼けたお転婆そうな少女に頭を下げる。やはり、ジョン・ロックの妹、シンシアだった。姿を見分けられたことにほっとする。前世の記憶の通りだ。

「……ごめんなさい。若い女の人と二人っきりの食事だなんて、女の人がどんな風に見られるかについてお兄ちゃんったら考えなしで」

「こ、こらシンシア!」

私のことを心配してくれたらしいシンシアと、焦った様子のジョン・ロック。私は思わずクスリと笑みを漏らす。

「ありがとうございます。でもあの……そういう風に見られても、いいかなって」

ええっ、という驚きの声が重なる。その表情はよく似ている。この二人が並んで元気そうにしているだけで嬉しくて嬉しくてたまらない。

「あ、あの、それじゃあもしかして、あたしお邪魔でした?」

「いいえ! 折角だからご一緒してもらいたいわ。ジョン・ロックさんの自慢の妹さんなんだもの」

推しと、推しの推しと一緒にご飯を食べる機会を逃すなんて勿体無い。そう考えながらちらりと見上げたジョン・ロックの顔は少し赤い。でも多分私も赤いのでおあいこだ。

「……こりゃあお兄ちゃんにも春が来たわね……!」

小さく拳を握ったシンシアの声が聞こえる。シンシア、こんな声をしていたのね。可愛い声。ゲームでは、聞くことができなかった。顔形だって、資料集とコミカライズに小さく載っていただけだった。ジョン・ロックとシンシアと並んで歩き出す。美味しい川魚のシチューを出すお店があるらしい。そういえば彼の好物は川魚のシチューだった。おいしい、と呟くその顔が寂しそうだった理由に思い至る。


シチューは本当に絶品だった。食べる合間に二人の楽し気な会話が聞けるのもあって最高の食事だったと言えよう。無論二人だけで盛り上がっていたわけではない。私にも話を振ってくれた。私の、キャシーの人生にそんな面白いことはない。十八年前、国中を襲った謎の病で家族を失い女神教会の孤児院で育った、どこにでもいるありふれた子供の一人だった。幸い、私には魔法の適性があったのでさすらい人として旅をすることを選んだ。……子供の頃から僅かに感じていた既視感と、漠然とした『ここから旅立たねばならない』という焦りは、きっと前世の記憶が朧気に残っていたせいだろう。原作でキャシーというキャラクターを見かけたことはない。名も記されぬ群衆の一人として生涯を過ごすはずだったのだろう。とすれば、私はキャシーの人生も捻じ曲げたことになるか。まぁいい、今更、一人増えたところで。もう遅い。

ふっと笑ってから暗い過去の話は置いておき私は旅で見てきたものの話をした。生まれてこの方この街に住んでいるという二人は珍しい旅路の話を随分と喜んでくれたので良かったと思う。


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