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地下室と少年

徴税官としての仕事と言えば、税金を滞納している人の元へ行き、税金を払うことを催促するような仕事だ。


だが、大抵はそんなことは無くみんなが納めた税の額とかを書類にまとめて地下書類倉庫にデータとして残す。それだけの仕事。


この部署は他の部署には適性がない異端者の収容所のような所だ。それでどうせならってちょうど人手の欲しあ徴税官の一員のような真似事をしているような窓際部署。


いや、窓際部署よりも格下──地下部署か。


つまり、


「あーあー、つまんねぇ」


一日中お日様の光に当たることなく古臭い大量の本に囲まれた室内の一角のデスクでただ定時が来るまで資料作り。


明日も、明後日も資料作り。

もう何日も剣を持っていない。


俺はついこの間まで戦場にいた。強い仲間と強い敵を倒してこの国に貢献すると誓った身は一体どこに行ってしまったのだろうか。


あの戦い──あと一歩で倒せた敵を逃してこのザマなんてそう簡単に忘れられる訳ねぇか。


「…おい、リン。あのなぁ……どれだけ考えたって元には戻らないんだから、とっとと仕事をしないか」

「グレイには分かんねーよ!俺の気持ちがッ!」


癇に障る言い方をされてついムキになってしまう。


俺は最近ずっとこんな調子だ。魔術の『ま』の字もない。生活魔法さえも使えない一般市民以下。



そんな自分が、大嫌いなんだよ。


「ほらほら〜、僕のクッキー食べたんだからちゃんとお仕事しなきゃダメでしょー?」


俺の後ろから仕事内容を教えてくれるリヒト。

別に仕事が分からないわけじゃない。ただ──


「…やりたくない……」


息を吐き捨てるようにその言葉が出た。


「もぉ〜!やりたくないじゃないの!」


リヒトは俺に強引にペンを持たせ、1枚の紙を目の前に出す。少し目を通せば何か違和感を覚えた。


「なぁ、これおかしくないか?」

「う〜ん…。確かにこの納税額少ないかも……」


このアグロス地方に食料補給のため戦時中寄ったことがあった気がする。


「リンお手柄だ。そこで問題だ、この税はなんの税だ?」

「えっと……あれだッ!…こ、こ、こなんとか税!」


そう答えれば2人して笑う。


「固定資産税だ。ちゃんと覚えておけよ」


くっそ…!バカにしやがって!


「でも、この紙は徴収署の方に渡ったあとなはずですよね?あの人たちが見落とすとは思えないですけど…」


徴収署ってどこだ?

2人して難しい話をしていてさっぱり分からねぇ…。


「で、どうすんの?結局これ違法だろ」


俺はごちゃごちゃするのは嫌いだ。大事なのは一瞬の判断だ。

仲間を助けるのも、捨てることもそうだ。だから違法を見逃すか、取り締まるかの2択しかないんだろ。


「そうだなぁ、結局違法は取り締まらなければいけないのは確かだが上に取り締まる人がいないんだ」

「は?そんなの専門の部署があるんだから何を今さら─」

「徴収署はしないよ。徴収署の人は間違いを見落とさない、つまりわざとやったことだよ」


珍しくリヒトが真面目に言う。やっぱり今もこういうこと堂々とやる人がまだいるんだなぁ〜、といつもと同じ風にも言った。

聞けば徴収署の人が税の負担を軽くする代わりにその浮いたお金を山分けするということがあるらしい。


「じゃあ、誰が取り締まるんだよ」


不正を暴く奴が不正してたら不正のエンドレスじゃねぇか。


「それは俺たちだ」

「──は?」


何言ってんだ、このおっさん。


─俺たちはただの資料管理で帝国軍のお荷物だろ?

─ただ人手が足りない徴税官の人数の足しだろ。


「表向きはただの雑用署。だが舐めていれば、この特別査察署に影から喰われる。まぁ、徴税官なのは変わらないけどな!」


そんな馬鹿な…─


…いやそれが本当なら辻褄があう。

こんな地下に少人数の部署があって他の部署の奴らは受付までしか絶対に入らない。


それにグレイもフィルも仕事は出来る奴だ。リヒトもこんな性格だがお荷物になるような奴じゃない。


奥の資料庫なんて見る機会すらない。重要証拠も全部保管できるうってつけの場所ってことか…。


「…聞いてねぇーよ」

「あはは、まぁ重要機密だから入ってすぐには教えられないよ〜」


俺は思い出した。

昔、俺が宮廷魔法士団に入団したころにレイベルから聞いたことがあった。


『なぜ、お金を納めるのかって?そういう決まりなのさ。

そうしないと暗闇から動き出す奴らの餌食になってしまうからね』


この頃はただの魔獣のことだと思っていた。


「仮に俺たちが不正したらどうすんだよ」


俺たちだって人間だ。不正する可能性だってゼロとは言えない。


「ふふ、じゃあリンに聞くけど何でも手に入るとしたら欲しいものは何?」


「魔法!」


そんなのそれしかない。俺がいる存在意義は魔法が使えるかだ。魔法が使えればまたレイベルの隣で戦える。みんなを守ることが出来る。


魔法が使えない俺はただのガキで何もできない落ちこぼれだ。


「それだよ!お金よりも欲しいものがあってそれはお金じゃ買えない。ここにいる僕達はお金に興味が無い。故に給料以上のお金は必要ない!」


そっか、金に興味のない人がいれば不正は防がれる可能性は高いのか。


「それでもお金と引き換えに自分の欲しいものが手に入るとすればどうすんだよ」


「じゃあ、聞くけど『魔法』は人が与えられるもの?無理でしょ〜、ここに集まってる人たちは人が与えられるものを欲してないんだよ〜」


俺だけじゃなくてみんな金よりも欲しい物があるのか。


「そこでだが、リンに現地徴収を頼みたい。出来るか?」

「…なんで、俺なんだよ」


俺が外に出たら不味いだろ。あんなに外に出せって言っても出してくれなかったのに。


戦の神童はもう戦には出れない。


国の戦力は欠けた。

それが隣国にバレたら攻められる。


「だってリンは資料整理苦手だろ?こっちとしては地下室で大人しくしてくれれば万々歳だがな」


木偶の坊は外回りの仕事だ!とグレイは言う。


「それにお前みたいな育ち盛りな子供は太陽の下で世界を知ることが仕事だからな」


ポンと俺の頭に手を乗せるグレイの手はほんの少しだけ温かく感じた。



「…子供扱いすんな、おっさん」

「おっさ…!?」

「おっさんだって!!」


今の今まで温かかった手に俺はゲンコツを貰いリヒトはゲラゲラと笑い転げていた。

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