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第28話 それぞれのやり方

「僕はククルみたいにいつまでも黙っているつもりは無いよ」


 にこやかに微笑むミーシャを軸にして作戦会議が始まる。

 宿舎の部屋で机を囲う中、ミーシャは突拍子もない事を言い出した。


「僕はダンジョン開拓事業で失脚した『ハートクリフ』伯爵家の生き残りだ」


 ヴィーナスが「だろうな」と鷹揚に頷き、俺は派手に首を傾げた。


「まぁ、僕の生い立ちなんてどうでもいいんだ。それより重要なのは、三人の中で一番良い席に座れるということ」

「どうでもよくはねえけど……一般席行きになんねえってわけか」

「そゆこと。だから、僕が先導できるね──魔法で」


 ミーシャの掌に風が渦巻く。


 最近見た中で今日が一番の精度だ。

 大分訓練してるな。


「なるほど、確かに風魔法は先陣として有用だ。風で物や匂い、それこそ音までも動かせる。どれも敵に勘付かれるリスクを考えなければ、の話だが」


 やれるのか?

 そういった眼差しでヴィーナスがミーシャを視る。


 ミーシャは少し視線と声量を下げて言葉を紡ぐ。


()()()()んだよ。僕に出来ることはそれくらいだから」

「……そっか。恩に着る。そんじゃ実戦ではバラバラに動くことになるな……」


 多少敵の事情に詳しいヴィーナスが用意した現地の大まかな地図の上に、石をいくつか滑らせて、シミュレーションをしていく。

 

 俺、ヴィーナス、敗北者の縄張り(ルーザー・ポイント)のみんながこの式場──の後方一般席で、おそらくミーシャはここ。来賓席、かなり前側だ。


 順当に考えれば、この位置から殴り込みをかけることができればククルは目と鼻の先。

 でも、そう上手く行くとは思えない。

 

「例えば、俺たち一般席エリアの前にバリアとか張られてたら厄介だよな」

「そうだね、ヴィーナスはどう思う?」

「うむ、グランツの性格について詳しく触れることはできないが……可能性はかなり高いとだけ言っておこう」

「……慎重ってことだね」

「……」 


 ヴィーナスは否定も肯定もしなかった。

 でも、ニュアンス的には()()()ということでいいだろう。


 つか彼女は情報を漏らすことが出来ないはずだけど、この地図はセーフなのか?

 聞いてみるとヴィーナスは問題ないと首を振った。


「廃墟トレッタ。私が漏らした情報はダンジョンではなく、百年ほど前に滅亡した家の──そう、有名な観光スポットの間取りに過ぎんよ」


 屁理屈じゃねえか。

 ま、これが呪印の欠陥ってとこか。

 仕様外の挙動に影響を及ぼせないからな。


「じゃあ、一般席からの攻撃は届かないって前提で話を進めようか」


 あーでもないこーでもないと、みんなで知恵を出し合いながら和気藹々と縦横無尽に駒を動かしまくる。

 そうしていく中で、やがて現状ベストな形が固まってゆく。


「……これは、危険すぎるって」

「ふっ、最近どうしたというのだ。豪胆になったな」

「っ、んなことねえよ。でもこれが一番堅いだろ、俺の戦闘スタイル的に」


 二人が呆れ顔を浮かべる中、俺は確固たる意志を伝える。


「まぁ、一般席で大剣なんか使えないか〜」


 そもそも正規のルートじゃ俺は全力で戦えない。

 大剣を振り回そうもんなら、クレイジーな殺人鬼の出来上がりだ。

 グランツが用意した環境自体が敵というわけ。


 じゃあどうするか、俺は駒を持ち上げて反対側に持っていく。


「文句ねえな。これで」


 屋敷には二つ大扉がある。


 一つは正規の正面大扉。

 もう一つは反対側の大扉。


 こっちから突入して、おそらくは待ち受けているであろう刺客をぶっ飛ばして、ある意味正々堂々と突入する。

 実に派手で良い登場になるな。


「……まあ、撤退にはそっち側使うと思うし。ある意味効率的かぁ」

「構わんと思うぞ。最高戦力に枷を嵌めるよりはいい」

「んじゃっ、決まりだな。グランツの横っ面ぶん殴ってやろうぜ」

 

 三人で拳を突き合わせる。

 ヴィーナスはいつも通り冷淡な顔していてまったく心配はない。

 だけどミーシャの表情が……


「不安? 心配すんなよ、エル。僕はこの数ヶ月で凄く強くなったんだぞ」

「……おう、頼りにしてるぜ」


 いや、問題ねえか。



♧♧♧♧♧♧♧



「ククル嬢、暴れるのはおやめください!」


 その日、グランツが所有するダンジョンの一室がいつものように燃えていた。

 地獄もかくやといった様相を呈す現場より出る(いず)のは太陽のような美女──ククル・ヴィ・アインザック。


 彼女はマッチの火を消すように、右手を下方向に払うと純白の鎧を纏った仮面の騎士に笑いかけた。


「べつに構わないでしょ。ここ、壊れないんだし」

「それは……そうですが」


 ククルの背後、焼け爛れた一室がゆらゆら揺らめく。

 火はやがて消し止められ、焦げ落ちた家具も逆再生するかのように戻る。


 ダンジョンコアも結局破壊できなかった。

 このダンジョンは、耐久性という意味では群を抜いているように思える。


「次の部屋に行くよ」


 消滅魔法を持ってしても破壊不可。

 しかし、攻略できないダンジョンはこの世に存在しない──『ウロボロス』も、踏破者がいないというだけでそれは攻略不可能であるという証明にはならない。


 そう考えるククルは行動をやめない。


 ──騎士にとってはたまったものじゃないが。


「ぇ、あっ!? いい加減にしてくださいよ! 僕が怒られるんですって!!」

「そうなの? それは可哀想」

「そう思うならストップですよ! ストップ!!」

「だいじょぶだいじょぶ、キミのせいじゃないって言っとくし。てか見てるでしょ、いえ〜い」

「はぁ、まったくこの人は……」


 仮面に向かってVサインを決めるククル。

 

 黙って期日を待っていられる女であるはずもなく……ククルは傍若無人に、ダンジョンを落とさんとする勢いで暴れまくっていた。


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