第16話 キスするの? しないの? どっちなんだ……っ??????????
その感触はあまりにも柔らかく、どこか甘く、蕩けるくらいに気持ちいい。
時間にして数秒。
だけど永遠に近い時間トリップしていた。
「どうしたの? 眠そうだね」
「そこのガキが寝かせてくれなかったんだ」
朝食。
パンの味がしねえ……夢の中の、アレ。
そうアレだよ。
舌の味がする。
「僕は悪くないぞ。付き合っただけだし」
「へ〜、そりゃなんでさ」
「わからないよ、急に吹っ切れたんだ」
「ふーん……変なの」
ククルが水を啜りながらジト目を向けてきたので俺は咄嗟に食器へ視線を避難させる。
……言えねえよ。
キスの話始めたら。
意識したら頭が冴えまくって寝つきが悪くなったなんて──!
しかも夢にまで、経験したことのないはずの味が装填されちまうもんだから──っ、ああ、殺してくれぇ。
つかなんで舌入れる前提なんだよ……っ。
「ねぇ」
水を口に含む。
「……」
「ねえったらエルくん」
「ブゥっほァ!?!?」
俺の口から水が噴き出す。
「……うへぇ。どうしたのさ、エルくん。今日なんかすっごいよ?」
対面に座っていたククルが雨に濡れたみたいになっていた。
あぁ……マジですっごいな。
「わりい……何か拭くもんを」
「ああっ、大丈夫だよ。こんなの蒸発させたら一発だし」
そう言ってククルは火魔法で乾かしてしまった。
しかし、同時に体温も上がったせいか少し汗ばんで頬も赤くなり──
「ちょっ、俺……先行っとくわ」
「え? あ……へぇ。いいよ」
見ていられなくなりバタバタと立ち上がって、酒なんて飲んでないのに千鳥足になりながら宿屋の扉にタックルした。
「どうしたんだ? あいつ」
「さぁね〜」
♧♧♧♧♧♧
そもそも。
何か忘れてねえかと俺は言いたい。
「……なぁ、昨日のさ。あれ、どうなったんだ?」
「あれって?」
「あれだよあれ」
「あれじゃ分かんないよ」
第二層に備えてアイテムショップで物色しながらククルにそれとなく聞いてみる。
「あぁ、もしかして──第一層があの後どうなったのかって話?」
「……っ、おう、戻されちまったからな。もっかい挑戦しなきゃダメなのか?」
「あーそれ僕も気になってたやつだ。ほんと、あれにはびっくりしたよ」
ミーシャと俺の問いを受けてククルは唇に人差し指を当てて答える。
それだよそれ、正解してんじゃん。
「その心配はないよ、パーティーにつき一回の試練だからね。突破したならもう素通りでOK。というか、もう扉は第二層に繋がってる」
「ふーん、すげえ仕組みだな」
「ちなみにハズレって言ってたけど、やっぱりパーティーごとに難易度が違うのかい?」
「変わるよ。SSランク探窟家を引いたのは正直最悪だね。代わりに道中楽勝だったから、まあ差し引きでちょいハズレってところかな」
ククルは唇から指を滑らせて棚の上に手を伸ばした。
高くて届かないのかうんうん唸りながら背伸びしている。
「……ん」
ひょいと魔力丸──食べると魔力が回復する兵糧丸のようなものが入った瓶詰めを取ってやると満面の笑顔を見せてくれる。
……くそ、かわいいな、おい。
ククルに瓶詰めを手渡していると、今度はミーシャがうんうん唸っていた。
「なにやってんだ……?」
「届かないんだ!」
「怪力丸なら、下のでよくね?」
「う、上の方が新鮮な気がするんだ……!」
「……何でもいいか。ほい」
「おおっ!? ありがとな!」
わけの分からん理屈で怪力丸──魔力丸のフィジカル強化バージョンを取って渡すと、ミーシャはぬいぐるみみたいにそれを抱きしめた。
……かわいいヤツだけど、なんなんだ??
「ふわーっ、たくさん買ったねぇ! 散財するの最高!!」
金貨30枚。
丸薬以外にも諸々買ったので、かなりの金額になった。
とはいえ全然取り返しつくから懐が痛いってほどじゃない。
それよりあれはどうなったんだ?
「……次どうするよ。やっぱもう行くか?」
「そうだね〜、うーん──」
「あぁっ、ちょっと待った。今日ってさ、あれじゃないか? 世界最高の探窟家グランツが帰還する日だって聞いてるぞ」
「そうだっけ? はは、さっすがぁ。ミーシャちゃんはよく知ってるね」
「まあな! だからさ、広場の式典行ってみようよ!!」
世界最高の探窟家グランツ──いいね、どんなもんなのか俺も見てみたい。
「さんせー。俺もすげえ興味あるぜ」
「だろっ!? ククルもどう……かな?」
ミーシャが思わず声を詰まらせる。
ククルが大きく目を見開いて、只事とは思えない表情をしていたからだ。
「良いと思うよ。わたしもうん、ひと目見てみたいなぁ」
──はぁ、最悪。
数秒後、彼女はデカい溜息を漏らすと糸が切れたようにしてゆらゆら近付いてくる。
「エルくん……わたしの目をみて」
「ん……? なん──だよ、いきなり」
緋色の瞳が濡れていた。
吸い込まれそうなくらいに綺麗な宝石が俺を捉えて離さない。
「お、おい……っ?」
辛うじて視線を動かしてミーシャに助けを求めてみたけれど、肩をすくめスカされてしまう。
蛇に睨まれたカエルのように固まった俺は、ククルの次なる一手を避けられない。
「もう少し焦らして遊ぶつもりだったんだけどな……」
そして、柔らかいものが触れた。
唇に。
ふれ──!?!?
「ぁ……ぁ、アア????」
舌がはい──っ
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