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第13話 『ウロボロス』第一層

 ラドールの探窟家ギルドは規模がぶっ飛んでいる。


 屋根にぶっ刺さった双剣に、外周に立ち並ぶ四対の塔。

 見上げれば常に快晴、訓練場に雨なんて絶対降らない。

 正面の門から入り口までの距離なんて無駄に遠く、50メートルくらいありそうだ。


「相変わらず無駄を極めたギルドだね〜、もうイヤになっちゃうよ」

「なに言ってるんだい! 何もかもが最高だよ!!」


 常連過ぎて嫌味しか出てこないククルと、なんでもかんでも目を輝かせてリアクションするミーシャは実に対照的だ。

 

 ただまあ、ミーシャには悪いけど俺もククル寄りだな。

 疲れて戻ってくる探窟家に対して酷過ぎだろ──って、冷静に突っ込んでしまう。

 

「……許可証取ってさっさと行こうぜ〜」

「さんっせー」


 でかいギルドとはいえ、やる事は変わらない。

 ククルがソロじゃなくなったということで多少暖かい目で見られたりはしたが、それだけだ。


 ギルドを経つ直前──


「ククルくん。もうすこし待っててね」


 何やらキザな男がすれ違いざまに意味深な言葉を残していったけど……ああ、それだけだ。



♧♧♧♧♧♧



 街の最北端。

 見通しの良い高台の上に、その()はあった。

 

 王城の正面扉くらいの大きさで、苔に覆われていて古びているのがよく分かる。


 どこにも繋がっていない、およそ役目を果たしているようには見えない開け放たれた扉を探窟家(シーカー)が出入りする光景はとても奇妙に映った。


「あれが……『ウロボロス』。凄いな」

「円環の扉。もう一つの世界。神の心象風景──ってね」


 語彙力なく漏らすミーシャ。

 詩人のように唄うククル。

 やっぱり二人の振る舞いはここでも全く異なった。


「行こう。二人とも──ここでは欲望に忠実になってね」



 三人同時に足を踏み入れる。



 一瞬、平衡感覚が失われて──世界が切り替わった。



 少し寒い、空気が乾燥している。

 空は雲一つないってほどじゃないが晴れている。

 ここは──


「第一層──『心象の揺籠』。パーティーメンバー一人の心象風景を検索して世界は構築される。で、これが理由ね。わたしがソロでやってたのは、毎回のブレをなくすため」


 空気が熱されてゆく。


 周囲を蔦で出来た壁が縦横無尽に走り回って、迷路を形成していく。


「あ〜、そうなったかぁ。ちょっと離れてて」


 ククルの言葉に従い距離を置く。

 彼女は細剣を抜いて──久しぶりに『消滅』の魔力形質を練り上げる。


『メ・リドラ』


 黄金の光は巨大な槍となり前方へ放たれる。

 形成された壁の悉くを消滅させて、迷路っていう概念を破壊してしまった。


「ふぅっ、行こっ」

「お前も大概デタラメじゃねえか」


 拓かれた道を歩きながら辺りを見渡す。


 蔦だらけの面白みのない空間だ。

 見てるだけでつまんねーって思ってしまう。

 いったい誰の心象だよ。


「ふーん……なんか寂しいな。これって三人のうち誰かの心って事だよな」

「そうだねミーシャちゃん。もっと強く、なんでも良いから欲しないと先へは進めない。魔物が出てこないのはラッキーだけど……ちょっと空っぽすぎるね。晴れてはいるみたいだけど」

「……」


 いったい誰の心象だよ──!


 欲望欲望って……ああ、ククルが()()()言ってたのはそういう事だったのか。


 いやぁ、誰の心象かは分からないけど、多分そいつ何にも持ってねえかもなぁ。

 欲望があっても何が欲しいかなんてはっきりとは認識出来てないんじゃねえだろうか。


「ねぇ、エルくん」

「んあ? どうしたよ」

「ちょっと屈んでくれるかな」

「ん……? こう、クァあわ!?!?!」


 言われるがままに腰を曲げた瞬間──ククルの顔が目と鼻の先に来た。


「欲して」

「は?」

「ここ」


 ククルがぷるんとした唇をなぞる。


「求める者にしか()()はこないの」

「……っ、違うだろ。こういうのはっ、義務的じゃダメだろっ」

「……いや、なの?」


 いや──なわけねぇ。


 ククルと初めて会ってからそれなりの時間が経った。

 ()()()、相変わらず一緒の部屋で三人寝泊まりしている。

 だからそう、理性は──日々悲鳴を上げ続けている。


「くっそ欲しい」

「じゃあ──」

「でも……今じゃない。俺はベストなタイミングを()()()()


 たどたどしく言い切ると、ククルは堪え切れなかったのか震えるようにして笑い始めた。


「あっははは! なにそれ……っ、まあ、うん。タイミングは確かに重要だね。じゃあさ──いつ欲しい?」

「…………一層、突破したら、かな」

「それ、()()()。したげるよ」


 ──ククルがもう一度唇をなぞった瞬間、大気が、空間が振動を開始した。


 なんだこれは。

 この音、地響き……いや、地割れか。


 後ろだ。


「っ、ミーシャ! 俺に乗れ!!」

「……」


 何故か彼はぼうっとして、遠くを見つめていた。


「ミーシャ!」

「──! あ、ああ!!」


 ミーシャを背負い、ククルを伴って走り出す。

 背後には津波のように地割れが押し寄せてきているので、もう後戻りは出来ない。


「どうなってやがる?」

「……ダンジョンが応えたんだよ。言ったでしょ、求めるものにしか()()はこないって」

「抽象的すぎだろ」

「仕方ないよ、()()の正体がなんなのか……正確には誰も知らないんだから」


 なるほど?

 ダンジョンの奥にあるものか。


「……おーけー、じゃあさ。とりあえず第一層の突破条件を教えてくれよ。今んところ何も難しくないぜ?」

「それはキミだったからだね。本来なら一帯魔物で埋め尽くされてるよ──さあっ、でも楽なのはここまでかな」


 ククルが足を止め細剣を抜き放つ。

 どうやら追ってきていた地割れは収まったみたいだ。


「第一層の突破条件は──フロアボスの撃破、だよ」


 何もない空間から黒の雫が一滴──ポツリと落ちた。


 そこから急激に肥大化して一つの形を象ってゆく。


 ゴキュゴキュと音を立てて手足顔といった、およそ人間に必要なパーツが組み上げられ──


「通称『ウロボロスの門番』。奴こそが──このダンジョンで朽ち果てていった欲望の結晶。わたしたちの先輩──とでも言い換えればいいのかな」


 全身真っ黒な大男。

 2メートルをゆうに越す彼の前に、身の丈以上に大きな大剣がどこからともなく突き立った。

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