始まり
<???視点>
「───聖女様が到着されました」
無機質な声が響いた。
「・・・」
忙しいフリをしながらその声の方向に目をやる。返事をしないのは軽薄と思われるだろうが、これが日常だ。なので無機質な執事は気にする様子がなかった。
「国のことを考えるなら『かの聖女』と婚約する理由はない。考え直さないのかと、陛下から伝言を預かっております」
「父上は『元』陛下だ。・・・わざと間違えたのか? リーフレス」
伝言の返事をした訳ではないが賢い執事、リーフレスなら分かるはずだ。
『かの聖女』というのは、厄災を振りまくと悪名高い女性。なぜ聖女と呼ばれるのかは『そういうモノだから』だ。例え・・・
「魔力もない、むしろ厄をもたらす。職業の聖女さえ偽りだと言われているのですよ。なぜ彼女を求めるのですか?」
そうなのだ。『どんな無能でも聖女』にはなれてしまうんだ。職業さえ聖女と示していれば。
周りが聖女でないと思っても職業がすべてだ。例え、『かの聖女』のいる国で疫病が流行ろうとも、急に不作になろうとも、反乱が起ころうとも。それが神が決めた職業であるから。
「ならば理由を言えば納得するのか? ・・・どちらにせよこの国を治めているのは私だ。あまり口を挟むでない」
だって私にとって彼女は・・・
「ヒヒーン!」
私以外にとって煩わしい聖女が到着するようだ。リーフレスは無機質な雰囲気のなかに不満を隠しながら馬車から下りた。執事としてエスコートはもちろん心得ているやつだ。私以外には、彼の不満げな感情を見ることはできないだろう。
「そんな心配は必要ない。このために私は今を生きているのだ。我が国が滅びようと関係がない」
あれからもう、どのくらい歳を重ねたのだろうか。年日が経とうとも彼女への気持ちは色褪せるどころか、膨れてしまうばかりだ。
そもそも『無能な聖女』であろうと、夫が丸く治めてしまえば『聖女』になる。彼女の扱いは良くなるのだ。それが恩返しなんだ。