94話 緊急護衛依頼発動、喧嘩だこらあ
昼前には次の町に着くと言ったな。あれは嘘だ。いや、速度的には嘘では無かったんだけど、前を商人の幌馬車が通ってたからさあ。緊急護衛依頼が発動しまして、今は夕方です。町には着いたけど。
何で商人がクイーンアントの発生時に危険な事してんだよとは思ったが、それでも行くのが商人である。ちゃんと護衛を雇っていたから問題は無かったんだろうけど。俺たちが追いついてしまっただけなんだ。
この緊急護衛依頼は出来高払いだからなあ。何も起こらなければただの足止めである。現に何も起こらなかった。町に着いたのはいいけどさあ。何も起こらないと夜が怖いんだけど。
まあそれよりも前に飯屋である。お腹が空いたのである。思ったよりも時間がかかったせいだ。何で商人がいるかなあ。ホントついてないな。
適当に飯を食っても良いんだが、何処か落ち着いたところで食いたい。食いたいがだ。そんな落ち着いた所なんてものは無い。何処も彼処も酒場の様相である。
酒場だとな、塩が利き過ぎてるんだよ。もう少し薄味でも良いと思うんだが、酒のつまみだからな。味付けは濃い方がいいだろうな。
そうなるとだな、流行ってなさそうな店を探したいが、何処も似たような感じだな。まあどこでも一緒か。適当に摘まんでさっさと帰ろう。宿探しもあるんだし。もうここでいいや。
さて、盛況な所に5人が座れるところはあるかいな? あるわ。良かった。っさて、注文はっと。
「マスター、なんか適当に腹に溜まるもの。それと水」
注文は適当。だってメニューなんて物が無いんだもの。マスターのおすすめ料理で行くしかない。こういう飯屋も結構あるみたいだからな。というかこれが主流、前の町でもそうだったし。
そして、マスターから桶を渡される。……何ぞ? 何も入ってないぞ?
「酒は出すが、水は裏の井戸から汲んできな。コップは貸してやる」
「おいおい、いきなり水を頼むやつが来たぜ!」
「ここを何処だと思ってんだ、ルーキー」
「チビ共の世話係も大変だなあおい」
「「「「「はっはっはっはっは」」」」」
流石にイラっと来た。こちとら腹が減ってんだよ。普通の飯屋なんてものが無いんだからしょうがないだろう? 今日この町に来たばっかりなんだ。ちょっとばかし来るものがある。
「酒を頼めよルーキー。ここはそう言う場所だぜ?」
「それとも何か? ミルクの方が好みってか?」
「ママー、おじさんたちが虐めるよー」
「「「「「はっはっはっはっは」」」」」
こちとら最近寝不足でイライラしてるんだよ。すきっ腹でイライラしてるんだよ。緊急護衛依頼のせいでイライラしてるんだよ! 気が付いたら桶を酔っ払いに目掛けて投げていた。軽くな。
「上等だこらあ! その喧嘩買ってやらあ!」
「いよっ喧嘩だ喧嘩だ!」
「桶が当たったのはロッジだな!」
「ロッジかルーキーかどっちに賭ける!」
「ロッジに酒1杯!」
「ルーキーに摘まみ1皿!」
やいのやいのと場所が広げられる。こいつら慣れてやがる。すぐさま簡易リングの出来上がりだ。見世物じゃあ無いんだがなあ。無いんだがなあ! こちとら少し切れ気味だこらあ。
「ルーキーに賭けた奴は後悔しとけよこらあ! さあ行くぞルーキー!」
大ぶりの拳が飛んでくる。まあこんな遅いのに当たるかってんだが、まあここは両腕で、手を重ねて拳が当たる瞬間に肘を張る。パンチカウンターだな。割と簡単に出来るからおススメだぞ。
「あがぁあ!」
その隙に足払いをかけてやる。当然の如くすっころぶ。すっころんだ所に踵落としを決める。……躱されたか。まあいい。
「いけー!」
「ああ、惜しい!」
「ルーキー決めろよ!」
「ロッジ! 俺の酒がかかってんだぞ!」
外野が楽しそうだなあ。こういうのは外野が一番楽しいのだ。当事者は一番詰まらん。負けないのは解っているが、ストレス解消に思いっきり戦うと殺してしまうからな。
切れてるが、落ち着いてるよ。でないと殺しかねないからな。殺しは駄目だ。牢屋行きだからな。脱獄も簡単と言えば簡単なんだが。
「っすぞこらあ!」
今度は蹴りですか。胴にもろあたりするやつ。まあこういう時は屈んで足を持ち上げてやるのが吉。そうするとその勢いのまますっころぶ。
「勝者、ルーキー!」
「ああ! ロッジてめえ!」
「ただ酒じゃあ! マスター酒もってきてー!」
打ち所が悪かったのか、起き上がってこなかった。多少はすっきりした。ホント多少だけど。思いっきり暴れたいなあ。
「さあ、ルーキーの連勝か! 次はどいつだ!」
「俺だあ! 来いよルーキー!」
「次はヘルモか、どっちに賭けるか!」
「ヘルモに摘まみ1皿!」
「ルーキーに酒2杯!」
「張った張った!」
なんか知らんが連戦が始まったんだけど!? こういう展開は予想だにしてなかったぞ。まあ向こうさんが納得するまで連戦させられるんだろうなあ。めんどくさいことになった。
その後、7連勝する運びになって、喧嘩はお開きになった。つまんねーぞと叫ぶ外野。何処からか集まってきた店の外の見学者。一体どこから来たって言うんだ。店の前が行列になってるじゃねえか。
「ようルーキー! いい暴れっぷりだったぜ。水だろ? 持ってきてやったぜ」
「あ、さんきゅー」
「今日はただ酒だぜ。この摘まみは俺の奢りだ! 賭けで勝った奴だけどな!」
はっはっはと笑いながら背中を叩かれその場を後にしていった。今日は今伸びている奴らの奢りだそうだ。飯食って宿屋を探しに行かないとなあ。
暴れ足りないが、人間を相手に本気を出すのは、戦争と賊相手の時だけだ。こういう喧嘩はあまり好きではないけど、やるとすっきりするからいいよな。負けないから言える事だけど。
あー、水が体にしみわたる。酒だと後々面倒だから水で我慢だ。奴隷たちの分もあるしな。飲ませても良いんだけど、水でいいだろ? 折角汲んできてくれたんだし。
奢りだからな。ごちそうになりましょう。タダ飯は美味いぞ。5割増しに美味い。例えはした金であろうともだ。飯食ったら宿屋を探すぞ。今回はまともな宿屋に当たってくれよな。




