72話 野戦開始の前、外壁上の集い
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10月9日木曜日、外壁前に来てますが、指揮官が居ねえ。野戦要員はぞろぞろと集まっていっている様なんだけど、向こうさんもしっかりと寝ているようなんだが。
睡眠妨害すら無しですか、そうですか。温すぎ。俺なら夜襲からの焼き討ちで同士討ちを狙うね。勝てば良かろうなのだよ。マジで温すぎ。
とりあえず、皆で外壁の上に来てるんだけど、こっちの集まりもぼちぼちだなあ。20万って所じゃないか? 200万集まる予定なのにな。
かく言う相手は展開すらしてない、まだ寝てる。2km以上向こうだから本当に寝てるかどうかは解らんけど、展開してくる様子もないから寝てるんじゃ無いか?
早めに来たんだけどなあ。どうしようもなく酷い。これが戦争? っは。カオスが足りないな。こんなのが戦争か。そうかそうか。
これから俺がやろうとしている戦術すら卑怯だと罵られそうだな。正々堂々、こんな戦争があるとは思わなんだ。昔の人も今の状況を見たら温いと思うだろうなあ。
奇襲に夜襲にだまし打ち。それでこその戦争だろうに。これじゃあ戦争ごっこだよ。ただのごっこ遊びだ。そこに俺みたいな空気の読めない奴が本気で叩き潰しに行くんだからどうなることやらだ。
「リシャール、グレン、お前らは一番右の一番前だ。端から削って行くように。他に命令があればそっちを優先しろ」
「「解りました」」
「まだ行かなくていい。暫くはここで待機だ。命令を上書きするかもしれないからな」
「やってくる敵を斬ればいいんですよね?」
「そうだ。とにかく倒しまくれ。向こうは緑色の布を巻いているみたいだからな。青は味方だ。間違えるなよ?」
「巻いていない人はどうしたらいいんでしょう?」
「巻いてない奴は敵だ。そう思え」
「解りました」
会話が成り立つ。それだけで嬉しくなるな。初めのころは聞き返しても来なかったのに成長したもんだ。泣けるねえ。
それで、今散らばっているのは殆どがハンターか貴族の私兵な訳だな。徴兵兵がこんなに早く来るほど士気が高いとは思ってないし。正規兵なら鎧を着てるだろうよ。
マジで、これが戦争なのか? 幼稚園のお遊戯会でもやるんじゃないかって感じだな。緊張感の欠片も、なーんにも無いんだが。
さーて、どうするかなあ。そもそもハンターの魔法使いも前線に出ていないか? それは馬鹿なのか? 魔法使いが高所を捨ててどうするんだろうなあ。
無駄にハンターを欠けさせるのもなんだからちょっと呼びに行くか。魔法使いが前線に行くとかお馬鹿の所業ですよ。高所より射程を活かした火力担当でしょ。
門をくぐって、そこらへんにいるハンターに話しかける。伝言ゲームの様に伝えて貰おう。
「すみません。ちょっと頼みたいことがあるんですが」
「あ? なんだ、ラズレイじゃないか。どうした?」
「魔法使いもこの中に混じってますか?」
「ん? あー、いるな。知ってる顔もあるな」
「その人たち、魔法使い全員に外壁の上に来てもらってもいいですか? なるべく多くの人に声を掛けて欲しいんです。魔法使い以外の人にも伝えて貰って、なるべく早く話を広げて貰えませんか?」
「別に構わんが、何をするんだ?」
「外壁の上から魔法を撃つんですよ。何で高所を捨てて魔法使いが前線にいるのか意味が解らないんですよ。魔法使いは戦争で死にやすいんじゃないですか?」
「おう、魔法使いは死にやすいな。だからあんだけ値段が違うんだろ?」
「無駄死にしないためにも外壁の上から攻撃させるんですよ。上からでも狙えるでしょ?」
「……まあ、狙えるだろうな。でも良いのか? ハンターは前線に立ってなるべく早く10人ほど倒して撤退するのが慣例なんだが、まあ声だけ掛けてみるわ。期待すんじゃねえぞ」
「ありがとうございます。俺の方も他の方に声を掛けて行きます」
魔法使いが前線に行くとか馬鹿ですか? 何のための後衛だよ。何のための高所だよ。兵士の魔法使いまでは面倒見てられん。ハンターだけを集めよう。まだ来てないハンターは知らん。運が無かったな。
何人かに声を掛けて回って外壁の上で待っていると、どんどん人が昇ってきた。ああ、見た顔だな。いたいた、よく金魔法を撃ってた人じゃん。金魔法は砲弾にはあんまり効果がなさそうだったんだよな。まあ当然なんですが。
「なんだ? ラズレイが呼んだのか?」
「そうです。俺が呼びました。もう少し待ってください、集まり切るまでもう少し待ちましょう」
「まだ時間があるからいいけどよ、早いとこ位置取りを確認しないといけないんだから早くしてくれよ」
「その位置取りの件で話があるんですよ。死にやすい魔法使いが死なない様にする方法です」
「魔法薬がある程度あれば10人は簡単だろ?」
「10人どころか100人でも殺れる方法ですよ」
「……へー、面白そうじゃん。待てばいいんだな?」
「そうですね。もう少し待ってください」
待ってみてかなりの数が集まったな。2万人くらいかな。外壁も少し狭くなってしまったけど、窮屈って感じも無いな。このくらいだったら問題なくやれるだろう。
ハンターの10人に1人位が魔法使いなのか。多いのか少ないのか解らんところだな。普通はどのくらいの割合なんだろうか。まあ、多いと仮定しとこうか。
さあ、説得の時間だ。半分残ればいい方かな。戦争慣れしている人ほど前線に向かいそうな気がするが。さてさてどうなるか。
「貴重な時間の中集まってもらって感謝する! ハンターのラズレイだ。聞いたこともある人もいると思う!」
自分で言っておいてなんだが、自分が知られているというのは、めちゃくちゃ恥ずかしいな。探索者をやっているハンターは知っている人もいるとは思うけど。
「今回外壁の上に集まって貰ったのは他でもない、戦争の話だ! 魔法使いは外壁の上から魔法攻撃を撃ってもらいたい! 前線にいれば死ぬ確率が上がる! 外壁の上からなら相手の魔法使いからしか攻撃は飛んでこない!」
この時点で若干ざわつき始めている。普通の事を言ったつもりなんだがな。前線に後衛を向かわせること自体ナンセンス。この程度の思い付きはあっても良いと思うんだが。
「卑怯だと思うのなら外壁を降りて貰っても構わない! いつも通りの仕事をやってくれて構わない! 俺の言葉に利があると思ったのなら残ってくれ! では移動をお願いする!」
さて、どのくらいのハンターが残るのか。ぞろぞろと帰っていくハンター。まあ想定内だ。1万人も残れば御の字と言えることだからな。何人残るかなあ。
……5000人から6000人は残ったかな。意外にもベテラン勢が残ったな。しがらみの少ない新人が残ると思ってたんだがな。まあこんだけ残れば問題無いだろう。
「残ってもらって感謝する! では軽く作戦を通達する!」
「まあ待て。ラズレイさんよ、言いたいことは解っているさ。一撃で倒せって言いたいんだろ? それは基本中の基本だ。ここに残ったやつらならそんくらいは解ってるさ。ここの利も本当は解ってたんだ。その位の判断力はあるつもりだ」
「だな。慣例だから前線に行っていたが、ここからが良いのは初めから解っていたことだ。1人だとやるにしたって勇気がいる。だからあんたには感謝してるんだ」
「そう言うこったな。馬鹿は前線に行かせておけばいい。後は魔法薬の補給だよ。その交渉は任せても良いのかね?」
「魔法薬の補給に関する交渉は任せて欲しい! では外壁から攻撃を行うことにする! 時間まではゆっくりとして欲しい!」
まあ、解る人には解るよなあ。ここの有用性が。慣例かあ、慣例は破るためにあるとまでは言わないが、今回の慣例は破るべきものだろう。高所の有用性は皆解ってたんだな。
さて、魔法薬の補給の交渉は任された訳だが、それはまあそんなに難しいことじゃない。兵士に交渉するんじゃなくて、兵站要員に交渉すればいいんだから。多分徴兵兵だろうから何も知らずに補給を受け持って貰えるだろう。
「リシャール、グレン、持ち場に行ってくれ。一番右の一番前だ。思いっきり暴れてこい」
「「解りました」」
さあ、戦争までもう少し。巻き込む人たちは巻き込んだ。こんだけいれば兵士も文句を言いにくいだろう。貴族が来たら、「お前が前線に行くのなら行ってやる」と言ってやるつもりだ。
どうなるだろうなあ。負ける気がしないんだが。高所を取ったんだからまあ負けないよな。後は神官を殺って、魔法使いを殺って、正規兵をやりつつ、徴兵兵を脅かしてやれば逃げるんじゃないかな。
……敵の動きは、向こうのハンターがちらほらとこっちに向かってきているくらいか。軍隊は敵も味方も来ていない。マジで何を考えているのか。
甘っちょろい戦争だなあ。まあやりますがね。少しずつやるしかない訳ですが。……神官が前線に来てくれるのが一番楽なんだけど、来るかな?
来ると思うんだよな。こんだけ温い戦いなんだから神官は前線に来ると思う。狙われるなんて思ってもいないはずだ。
……他の人にも神官を狙ってもらおうかと思ったんだが、止めた。日魔法が欲しくなったから。独占させてもらいますよ。ヒーラーは潰す以外の選択肢は無いからな。
そんな訳で、もう少し時間がかかるかな。早く来ねえかなあ。指揮官も無能であるか有能であるか気になるところだが、有能なら早く来て準備をしてるよなあ。
まあここの戦力には文句は言わせませんので。死にに行く馬鹿はここにはいないのだよ。馬鹿はすでに去った後だ。開戦までまだまだ時間がかかりそうだなあ。早く始まらないかなあ。




