第97話
綺音が駅に来てから、自転車を置いて公園に向かった。
須磨駅前の国道を挟んで、向かい側に『潮見台町公園』はある。
その公園は、私たちの憩いの場でもあった。
バスケットコートがあったから。
正面の入り口から入り、待ち合わせの広間に着くと、コカコーラ製の赤いベンチの上で寝転がり、星を眺めてる亮平がいた。
「なに呑気に寝転んどんや」
「…お、おう。来たか」
「…なに驚いとんねん」
「ちゃんと来てくれた、と思って」
「いやいや、行く言うたやん」
「そうやけど、未来から来たとか、変な話やん?」
なに急に冷静になってんだ。
…ってか、寒いんだけど。
「場所移そか」
ムクッと立ち上がり、お前ら自転車は?と聞いてきた。
「置いてきたけど、なに?」
「今から展望台に行こうと思って」
「展望台!?」
目的はわかってる。
隕石を見るんでしょ?
でも今から展望台って…
「すぐ近くやんけ」
「距離的にはね。でも坂道登らんとあかんやん」
「坂道くらいどうってことないやろ」
「…あのなぁ」
恐る恐る振り返った。
絶対2人は嫌そうな顔してる…
そう思い、亮平の代わりに謝ろうと思った。
でも、思いのほか2人の表情は明るかった。
「久しぶりやん、展望台」
「そうやなぁ」
「え!?そうやっけ?」
「中2の春以来やろ」
「中2の春…ああ…」
「思い出した?」
「…うん」
「あの時は夜じゃなかったけど」
中学時代、この3人とはよく自転車に乗って街の観光名所を巡った。
春になれば桜を見に行ったし、六甲山の頂上に登って、真夏のキャンプを楽しんだりもした。
昆虫採集に精を出す綺音を全力で止めようとするアキラ。
それに加勢する私を横目に、今集中してるから!と綺音に怒られた苦い記憶。
海浜水族館に週一で通ってた夏休みの自由研究と、プロポーション抜群な2人の水着姿。
秋の入道雲を追いかけようと、4丁目の畦道を突っ走った午後4時過ぎの隣町。
展望台にも色々思い出はある。
風の岬もそうだけど、神戸は海を一望できる展望台が結構あるから。
家から近いこの場所も、子供の頃によく来てた。
学校の遠足でも、この場所が指定されたことがあったっけ。
「でも、めんどくさくない?」
「なにが?」
「今から展望台やで?」
「今日は星が綺麗やし、いいんじゃない?」
えええ
そういう問題なのか?
綺音は大丈夫?
「このあとアキラん家に泊まるから、私はべつにどこにでも」
「…え!?なにそれ!聞いてないんやけど」
「だから楓も誘おうと思ってたんよ。どう??」
いやそりゃもちろん泊まりたいけど、それならもう今すぐに行きたいわ…
展望台なんかに登らないでさ。




