第86話
「まぁ美味しそうだし良いかもね」
私とアキラはそれに決めた。
亮平は男の子というだけあって、アイスとクレープとあとなんかよくわからないフルーツケーキを頼んでいる。
てか亮平の奢りか。
それなら他にも何か頼もうと思ったが隣にとんでもないバケモンがいた。
『ホットケーキタワー++』
ホットケーキタワープラスプラス?
そのメニューに関しては写真が載ってなかったが、とんでもない値段設定がされていた。
なんと2500円税抜き。
亮平は一瞬え?みたいな感じで固まったが、目を点にさせたまま、無言で会計に進んで行こうとしている。
綺音はさすがに高すぎるから自分で払うと言っていた。
いや遠慮すんなと全額支払っている亮平。
なんだ、たまにはかっこいいことすんじゃん。
少し感心したが、それにしても2500円ってヤバすぎだろ…。
一体何が出てくるのか恐怖でしかない…
席に着いた後、ドリンクだけ各自自分で買って、至福のひと時に入る。
亮平はまたコーヒーを飲んでいる。
アキラもそのことを驚いてた。
「コーヒー飲んでんの?」
「そ!」
いくら長生きしてるからって、14歳の体にカフェインは大丈夫なのか?
激甘の濃厚いちごミルクティー(HOT)を息で冷ましながら、昼にあった剣道の試合についてを聞いた。
「ねえ、今日試合してたやん?」
「ああ、うん」
「なんの試合やったんあれ?」
亮平はニコニコしながらカッコ良かったか?って聞いてくる。
…あー、無い無い。
「俺高校行きたい言うたやろ?」
「うん」
アキラや綺音は、高校なんて行くの当たり前じゃん的な顔でその言葉に反応している。
まあ、この2人は亮平が元々の世界で高校に行かなかったというのを知らないから、そんな顔をするのも無理はない。
「今の出席日数とか前期の成績とか持ち出すと、受け入れてくれる高校がないんや。試験を頑張っても今までの素行が悪すぎて認めてくれん。そこでや。校長に話を持ち出したんや」
「話?」
「そ!俺が剣道強いっちゅーことを目の前で見せたら、校長の知り合いがおる大阪の名門に推薦してほしいと、頭下げたんや」
なるほど…。
でも、相手は大人だったよね??
かなりシビアすぎん?
「今までの行いを全部チャラにして推薦するんや。校長にもメンツってもんがあるやろ?いくらその高校と繋がりがあるからって言うても」
まあ、分からなくはないが。
で、結局相手は誰だったのさ?
「推薦先の高校の顧問」
ファ!?
高校の顧問??
「…ん?あぁ、そうやけど、どした?」
いや、どしたじゃなくて…。
え?
私がおかしいかな。
それとも、その顧問は大人の中でも弱い部類に入るのか。
いやいや名門高の顧問でしょ?
垂れネームには「大阪」って書かれてあったし、本人も絶対現役の人でしょ?
「現役やと思うで?毎年出場してるみたいやし。全日本選手権」
えぇ…。
難易度が超高い「全国府警剣道大会」の方ではなかったが、全日本選手権って。
そんなバケモンと試合したのかよ。
と絶句していると、テーブルに運ばれてきたパンケーキもまたバケモンだった。
「こちらがホットケーキタワープラスプラスになります」
ちゃんと店員さんはプラスプラスまで言って、どうぞお召し上がりくださいと一礼をし、去っていった。
「ありがとうございます」と返事する一同。
そんな一連の動作がどうでもよくなるほど、目の前に現れた怪物。
一言、…やばい。
到着した「モノ」が、インスタ映えの領域を超えてもはやただの「現実離れ」でしかない。
厚さ5センチはあろうかというほどの分厚いホットケーキが、1、2、3、4、5、6…10個!!!
10個である。
「枚」というカウントの方が正しいかもしれないけど、1枚1枚が大判焼き並みの分厚さだから「個」の方がなんだかしっくりくる。
やばい。
これはやばい。
タワーが倒れないように下から長い棒を刺して支えている。
綺音はその様子を見て「倒れないようにしてるから大丈夫だよ」と安心しているがそんな心配はしてない。
それよりももっとツッコミどころがあるだろ。
なんだよ『倒れないようにしてる』って。
食べ物に用いる表現じゃないよ、それ。
テーブルに置かれたその物体を見上げながら空いた口が塞がらなかった。
続いて私たちが頼んだものもやって来た。
亮平が頼んだものもきた。
私たちの『いちごとミックスベリーのパンケーキ・5枚』も薄焼きとはいえ1枚1枚の間にアイスクリームが挟まってるから相当デカいはずだが、綺音のやつに比べるとものすごい小さいホットケーキに見える。
綺音は早速そのホットケーキタワーを激写している。
それ、写真撮るのはいいけどかなり引いたところからじゃないと全体が映らなくね?
てか、この実物の巨大さは写真じゃ絶対に伝わらないだろうな…残念なことに…
動画でも撮ってみんなに見せびらかせてやろうぜ!!
梨紗もインスタ映えするスイーツとか好きだから、今こんなもん食べてるよー!ってメール送ったげようかな。
「んーデリシャス」
綺音は一通りスマホで激写した後、満足げにフォークを握りしめ、上から一枚ずつ取り出す形で小皿に移し替え、豪快に口の中に「それ」を放り込む。
…うん、完全に目が逝ってる。
その瞳孔の中には今はパンケーキしか映らないだろうというようなウットリとした表情を見せている。
今、とんでもなく幸せな気持ちなんだろうな…
いや、美味しんだろうけどさ…。




