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雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
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第77話


 ファミマに着くと、アキラが駐車場の車止めのブロックの上に座り込んで音楽を聴いている。


 アルパカ混の上質なニットカーディガンの下に、古着をリメイクしたデニムパンツ。


 透け感のあるトップスの下に黒のインナーがうっすら見える。


 手持ちのリュックサックは小さめだが、恐らくバッシュとユニフォームが入っている。


 女子中学生とは思えないほどにおしゃれな格好だが、これからバスケの練習に行くんだよね!?と突っ込みを入れたくなってしまった。



 「ハロー」



 完全防寒状態の私に向かって「誰だよお前」と視線を向けられたが、そんなのは気にしない。


 命の方が大事だからね。



 「昨日風邪引きそうになったからリポD買っとこ」



 コンビニに入って色々物色する。


 風邪薬を買っとこうかとも思ったが、今は喉も痛くないし、多分大丈夫だろう。


 でも一歩間違えれば確実に引く恐れがあるから、リポDと、ウィダーインゼリー(ビタミンタイプ)をカゴに入れた。



 「え、昨日亮平君のとこ行ったの?!」



 行ったけど、なんだその反応は。



 「最近学校で見なかったからさぁ」



 まぁ3年になったあいつはほとんど学校に来てなかったもんね。


 てか学校に来てなかったあいつが、高校に行くなんて可能なんだろうか?



 「元気にしてた?」



 うーん。



 「元気なんじゃない?」



 アキラに昨日のことは話そうか?


 …いやいや、ダメだダメだ。


 話そうにもどっから話せば良いやら。


 事故に遭ったってところから?


 それこそ体育館に着くまでに話が終わっちゃう。


 中途半端に話が終わって中途半端に変人だと思われるのは嫌だ。



 「おはよーっす!」



 スイーツを物色してる間に綺音がやって来た。


 やって来るなり私に抱きついてきて「お前どこのクマだー!!」と両手でホールドしてくる。



 「ちょっと、邪魔邪魔」



 残り一個の苺大福をアキラに取られる前に私が強奪しなければ。


 綺音の茶色いショートボブのてっぺんから香るラベンダーの匂い。


 多分シャンプーだろう。


 綺音は外見的にはスポーティーな格好で、どちらかと言うとメンズに近い顔立ちだが、内面的にはほとんど隠キャだ。


 授業中にイラストを描いたり休憩時間にスマホで麻雀をしたりと、私たち2人に比べればかなり多趣味な一面を持つ。


 この間なんか市内の大型量販店で超デカイ観賞用の水槽を買おうとしてた。


 「シーラカンスでも飼うつもりかよ!?」と聞いたら予想の斜め上を行った。


 どうやら、リクガメを飼いたいそうだ。


 …カメって、家で飼うもんなのかとその時に考えさせられた。



 コンビニで買う物を買った後、自転車置き場に自転車を止めて体育館に向かう。


 学校の日はバスを使うが、部活の日だけは自転車で学校まで来る。


 少し時間はかかるが、筋トレにもなるし帰りは下り坂だから早い。



 更衣室で練習着に着替え、バッシュの紐を結ぶ。


 別にジャージで練習しても良い気はするが、部の決まりで服装は統一しなければいけない。


 そのかわり冬は専用のスウェットやパーカーがある。


 ズボンは一種類しかないが、長袖があるだけマシかな。



 「よっし!始めるか」



 私たちの最後の大会でもある全国中学ウィンターカップは、1月4日から7日まで開催される。


 予選の大会が10月に行われたのだが、出場チームの少なさとリーグ制による順位決定のため、私たちは奇跡的な勝利を挙げることができた。


 部員も20人と他の中学やクラブに比べれば多い部類に入る。


 元々、須磨西中学は県内ではバスケ部が強いことで評判だった。


 1年の時アキラに誘われたのも、アキラの姉ちゃんがこのバスケ部で全国に行っていたからだ。



 コート内に入ってストレッチする。


 今日の練習は、大会が近いから主に試合形式の練習を行うそうだった。


 顧問の「松つん」がダウンコートを着て練習メニューを黒板に書き出している。


 我がチームの長所はオフェンスだから、エースを起点にした陣形やパスの出し入れを支点として、練習を行う。



 チームのエースは綺音だ。


 別名『レフティ・モンスター』と呼ばれる彼女の左手は、左右どちらからでも繰り出せるレイアップシュートのバランス感覚を補っている。


 フリースローエリア内で綺音にボールを繋げば、相手の動きに合わせて反転することができる両足のステップが、華麗なドリブルとシュートのコンボを生み出す。


 隠キャとは名ばかりの、西中バスケ部の至宝だ。


 彼女の俊敏性に勝てるものはまずいない。


 一度スイッチが入ると、突然喉元にナイフを突きつけられたかのような無防備な隙を突かれ、あれよあれよという間にゴール下に潜り込まれてしまう。



 ストレッチの後、フットワークの練習を行って、ツーメンスリーメンを想定してのパスやドリブルの練習に移った。


 アキラと綺音がタッグを組み、私は相手選手役でポイントガードを務めることにした。


 他のメンバーも同じような形式を取って、時に交代しながら汗を流していた。



 「うぃーす」



 練習を始めてから1時間後くらいに、剣道部が体育館の裏口から入ってきた。


 剣道は3年生はもう引退してて、今の時期は2年と1年のメンバーが春の大会に向けて練習してる。


 バスケ部と違って人数が少ないから、程よい感じの空間で和気あいあいとしながら、剣道部とは思えないほど静かな雰囲気で、いつも基礎練習をこなしてる印象だった。



 っていうか、剣道って言うと野球部並みの礼儀正しさと言うか、無駄に大きい声をしょっちゅう連発してるイメージだが、西中の剣道部は全体的にだらしがない。


 一応こっちは張り詰めた空気を持って練習してる。


 顧問が怖いとかルールが厳重とかそういう基本的な部分は当たり前としても、1年通して結果を残し続けてる「部」だったから、他の部と違って「真剣味」が自然とメンバーの中に身につくのだろう。


 うん、これは松つんのおかげだね。


 チームをまとめる存在っていうのは、見えない力のようでじつはかなりデカいんじゃなかろうか。

 

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