第680話
亮平の自転車の後ろに乗ると、いつも、背筋がピンと伸びるような気がした。
緊張するとか、そういうんじゃない。
むしろ、その逆だ。
思いっきり背中を伸ばした時のような気持ち良さが、明るい日差しの下に広がる。
後部座席もちゃんと改造したんだ。
既製品のシートじゃ硬すぎて座りにくいから、ホームセンターで色々吟味して改造した。
時々亮平の方が寝坊で来ない時があるが、そういう時は私が出向いてる。
さっさと起きろと2階の窓に声を掛ければ、無言で支度を始める彼がいる。
ドタドタドタドタという忙しない音に、むくんだ顔。
お互い寝坊してやばい時が1回あったけど、あの時は一緒にバス停までダッシュした。
ドアが閉まって大変だったが、後ろから猛ダッシュで追いかけてたら止まってくれたんだ。
優しい運転手さんだった。
自転車で色んなところに行った。
学校だけじゃない。
海はもちろん、繁華街や郊外、ショッピングモールに水族館、元町の高架下や線路、大阪湾の見渡せる西宮の港。
スイーツ巡りの旅や、ラーメンの食べ歩き。
10月の全国大会には一緒に見に行った。
全国警察剣道選手権大会に。
日本武道館はめちゃくちゃ大きかった。
初めて東京に行ったんだよね。
学生レベルの剣道しか見てこなかった私にとっては、そりゃもうすごい迫力だった。
大人同士の戦いってやつ?
呆気に取られながら見ていると、その横で、目を輝かせてる亮平がいた。
2階のスタンドから、息を呑むように。
いつかこの武道館に立って、いちばん強いヤツと戦いたい。
帰り際にそう話してたんだ。
ガキ臭かったけど、それ以上に垢抜けた表情があった。
なんていうんだろう。
本当に強くなりたいって気持ち?
単純で、それでいて言い訳のできないまっすぐな言葉に、曲がる気配もないままぶつかってるというか。
亮平らしいっちゃ亮平らしい。
融通の利かないバカ正直さは、相変わらずだ。
逆にそれしかできないんじゃないかって、時々思う。
たこ焼きと言えばソースで、ラーメンと言えば醤油。
たまには別のもの頼んだら?って思うけど、一度これと決めたら、頑なに変えようとしなくてさ?




