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雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
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第65話



 夜もだいぶ更けて、婆ちゃんは寝静まってしまったようだ。


 私たちは会話しながら、今後のことについてを話した。



 「あんたの考えは、世界を”修正”するってことやろ?」


 「そうや」



 「自分」を犠牲にするというのは断固反対だが、亮平はなにか提案があるみたいだった。



 「心配すんな。現状の問題を伝えるために言うただけや。他にも方法はある。…とは思う」



 急に自信無くすのはやめてもらっていいかな?


 未来で何か聞いてないわけ?



 「聞くって?」


 「そりゃ、私を助ける方法をよ!」


 「なんや、死にたくないんやな(笑)」



 そりゃ誰だって死にたくないさ。


 本当に自分が今過去に来て、未来で死ぬかもしれんのやったら、絶対に助かりたい。


 死ぬなんて想像もしたくないし。



 「方法っていうか、未来を変えれる方法なら、少しだけ」


 「例えば?」


 「なんていうんやろな。さっきの話は、もし誰かが死ぬという結果を変えれば、代わりに誰かが死ぬという結果に繋がると言うたやん?」


 「うん」


 「ただ、より具体的なことを言えば、それはより微細なマイクロサイズのエネルギーの変動によって、“一つの出来事が変わる”ことを意味する」


 「wats!?」


 「ここで、俺がここにあるテレビのリモコンを“持った”としても、エネルギーは発生してる。このタイミング、時間に、“なにをしているか”、それはもう一つの世界で「全く同じ」ということはない。同じやない言うことは、それぞれがそれぞれの世界でエネルギーの使われ方が違う言うことや。『エネルギーの総量』の話に戻れば、ある一つのタイミングで何か“違う”ことが2つの世界の間で起きた場合、2点間のエネルギーの<使用量>と<使用率>の絶対領域を定常化する上で、互いに同じエネルギー状態に“修正“される。つまり、より微細なエネルギー領域に於いて、一つの出来事の変化が生じとる」


 「ちょっと…、難しい難しい!!」


 「えーっとやな、…つまり、今、こうやって会話してることも、「出来事の変化」に含まれる」


 「…その「出来事の変化」っていうのは、簡単に言うとなんなん?」


 「過去と現在と未来の、それぞれのエネルギー量の変化率やな」


 「…あのさ、もっと簡単な言葉で言えんのん?」


 「そうやなぁ…、例えば楓にとっての「2013年のこの日」は、俺の家に来ることはなかったやろ?」


 「…あぁ、そうやね」


 「その時点で「出来事の変化」は起こってるし、過去が変わっているということになる。過去が変わっていると言うことは、もう元の世界とは同じようにはならんということや。簡単に言えば」


 「同じようにはならないって、でも似たような出来事が起こったで?」


 「まあ待て、話はそう単純やないんや。あくまでそれは大まかなイメージに過ぎん。俺が言いたいのは、俺が過去に戻ってきた時点で、すでに出来事の変化が起こっているって言うことや」


 「それがどうかしたん?」


 「出来事の変化が起こってるっていうことは、それによって世界が修正を行ってる」


 「その『世界の修正』ってのもよくわからんわ…。なんでそんなことが起こるわけ?」


 「…そこは俺も説明はできん。さっきも言うたやろ?知識はあくまで借りもんやって。ただその『修正』のせいで、2度と同じことが起こらないって言うのが、科学者の中で定説やった」


 「2度と…?」


 「そう、2度と。仮に元々の世界同じような出来事と遭遇しようと思っても、それと同じ時間、同じタイミングで、それが起こるという「保証」はない。簡単に言うとそう言うことやな」


 「…よくわからんが、元々あった世界の出来事と、同じ現象はもう二度と起こらないってこと?」


 「そうや」


 「それって、この瞬間もそうなの?」


 「俺が未来から情報を送信された時点で、「世界」はすでに同じ状態やない。やから、俺が仮に事故に遭っても、元の世界の結果には繋がらん言うことや」



 ようするに、エネルギーの変動によって生じた2点間の“誤差“は、すでに元々あった結果の「対称」とは”同じ状態にはなれない“とした。


 これは、巨視的には、「時間の矢のパラドックス」と同じ原理の上に成り立つ法則であるらしかった。


 『時間の矢のパラドックス』とは、1927年に英国の天文学者アーサー・エディントンが提唱した概念だって、ノートに書きだしながら説明してくれた。



 その概要について、ひとまず目を通すことにした。




 【空間は前後左右上下とどの方向についても対称的に移動できるのに、時間は過去から未来にむけての一方向にしか(非対称的にしか)進行することがない。これを、一度放ってしまえば戻ってくることはない矢で例えたものである。時間の矢はなぜ存在するのか、つまり、なぜ時間は過去の方向には進まないのかは、物理学の未解決問題の一つである。】



 【任意に矢を描いてみよう。我々が矢印の方向に従うにつれて、世界の様子に乱雑な要素がますます見つかるようであれば、矢印は未来を指している。乱雑な要素が減って行くならば、矢印は過去に向いている。これが物理学で知られている唯一の区別である。乱雑化の導入が取り消せない唯一の事実であるという根本的な主張が認められれば、これはすぐに続く。宇宙で類似物をもたないこの時間の一方向性を表現するために、「時間の矢」という言葉が生まれた。】



 亮平は、そのより詳しい概要を説明するために、「熱力学」の概要を用いた「時間の矢」の比喩的説明文章も、記載して始めた。



 【『熱力学』は物理学の基礎理論の一つであり、その応用は熱機関や化学反応など多岐にわたっている。熱力学においてとりわけ重要なのは、第二法則である。熱力学第二法則とは”エントロピー増大則“に他ならず、「断熱された系のエントロピーが減ることはない」と表される。

 熱力学第二法則は不可逆な変化に関する法則である。ある変化が不可逆であるとは、その逆向きの変化が自発的には起きないことを意味している。たとえばある現象を”ビデオに撮って逆再生“したとき、それが物理的にあり得ない場合に、その現象は不可逆であると言える。室温の空気中に熱いコーヒーを放っておいたら冷めてしまうが、その逆、”つまり冷めたコーヒーがひとりでに熱くなることはありえない“。つまり、コーヒーが冷めるのは不可逆な変化である。このような不可逆性は、しばしば比喩的に「時間の矢」と呼ばれる。】


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