第653話
「なあ、見てや」
「ん?」
「スニーカー、買い替えたんや。これで今日、勝つ」
昼休みのグラウンドで、校舎の屋根下に寝転びながら、ツナパンをかじってた。
まだ土のかぶっていない真っ白なスニーカーを披露しながら、鼻息を荒くしている。
そうか、今日は勝負する日か。
時間が経つのはあっという間だな。
この前、勝負したような気がしたけど。
「靴に頼んなや」
「じゃあ裸足で走るか?」
「あんたがな」
私に勝つなんて100年早い。
紙一重ならまだしも、まだまだ差がついてる。
実はこっそり特訓してんだよね。
負けた時に言い訳したくないから。
「短距離走やれば?」
「え?」
「いや、走るの速いし…」
まあ、考えなくはなかったよ。
母さんが勧めてくる時もあった。
案外楽しいで!って。
もし、この街に生まれていなかったら、陸上をやってたかも。
キーちゃんやあんたと出会ってなければ。
アキラや綺音に、出会ってなければ。
そんなこと言い出したらキリがないか。
ようはタイミングってやつ?
電車やバスに発車時刻があるように、時間がずれれば、目的地も変わる。
「ってかなにその言い草」
「なにが?」
「マネージャー業務バカにしとるやろ?」
「いや、そういうわけやないけど」
じゃあ、どういうわけだよ。
色々大変なんだからな?
とくにあんた。
この前遠征先のバスでジュースこぼしたろ?
誰が拭いたと思ってるんだ?
うん?
バツの悪そうな顔をして、知らんぷりをしている。
別にいいけど。
仕事だし。




