第651話
ホームルームが終わったあと、クラスの子たちと話してた。
というか、今私がいるこのB組には、なんとあの「翔君」がいる。
今まで同じクラスになったことなんてなかったのに、まさかの展開でびびった。
中1の頃は別に興味なかった。
そもそも接点があんまないし、どっちかっていうと近寄りがたかった。
サッカーがうまくて勉強もできて、先輩の女子からも注目を浴びて、まるで違う星から来た地球外生命体みたいな雰囲気に。
誰にでも気さくに話すし、弱点なんてひとつもない。
同級生の子達はファンクラブを作ろうとか言い始めてた。
そうなるのも頷けるほどの、圧倒的な存在感。
廊下を歩く時、教室やグラウンドにいる彼を遠巻きに見るのが精一杯だった。
チャラそうだなぁ…って思ったからさ?
彼がいるだけで、クラスが垢抜けたように見える。
翔君を好きになったあの頃が懐かしい。
ほんと、唐突だったんだよね。
文化祭の舞台で困ってた私を助けてくれたあの時から、好きで好きでしょうがなくなってしまった。
私なんかのために学校中走り回って舞台用の小道具を直してくれたんだ。
カカトの折れたシンデレラの靴。
技術工作室からパクってきた瞬間接着剤で、なんとか舞台までに直してくれた。
あの時から、魔法にかかってしまった。
劇が終わる頃には、もう頭の中は真っ白で。
誰かを好きになるなんて、本当にあるんだろうかって思う時期があった。
女子たちの恋バナを聞いてると、なに浮かれてんだよと思ったりもしたが、案外楽しいもんだなと思った。
とくに、中3になる頃には。
当たり前だと思ってた。
なにがって、そりゃ、通い慣れた道が、いつも同じ道に見えるのが。
毎週月曜日の全体朝礼、授業の合間の休憩時間、放課後と、下駄箱。
隣にあったものが、いつの間にか色づいてた。
めちゃくちゃカラフルで、パレットを逆さにしたみたいに。
ふとした視線で気づいたんだ。
あ、やばいかも…って。
心臓がバクバクだった。
グラウンドに転がるサッカーボールの音を聴くと、つい、窓から覗いてしまう自分がいた。
なんで好きなのかどうでもいいくらいに眩しかった。
彼と話せる機会を見つけたくて、サッカーを猛勉強したんだ。
メッシとかクリロナ、あとネイマール。
父さんがワールドカップ見るのが好きだったから、今の日本のことについて聞いたりしてた。
オフサイドとかいまだによくわかんないけど、ノリノリで話してくれたおかげで、サッカー用語は色々知ってる。
バスケとか野球に比べると、全然だが。




