第649話
バス停で彼女と別れ、海岸線沿いに自転車を漕いだ。
鉢伏山の坂道を上る登下校の道。
袖を捲ったクシャクシャのシャツ。
ウエストの緩いプリーツスカートと、肩にかけたカバン。
「ねえ、もっと早く漕げんの!?」
「無茶言うなや。ただでさえ重たいのに…」
「遅刻したらあんたのせいなんやからね?」
「100%お前」
「はあ!?」
もうすぐ夏休みだ。
長い夏がやってくる。
夏休みの宿題は、いっつもギリギリだったよね?
今年は計画的にやるぞ。
部活で忙しいとかは理由にならないんだ。
ばあちゃんが許しても、私が許さない。
計画的にいかないと、あとで痛い目に遭うんだよ。
経験者は語るってやつ?
ようは、要領よく行くのが大事。
人生と一緒だよ。
積み重ねが大事なんだ。
車を買うのも、家を建てるのも。
チャイムギリギリに校門をくぐり、急いで上履きに履き替える。
「あ、ちょ、俺の上履き!!」
「へっへーん!」
こうして彼にいたずらするのも久しぶりな気がする。
なぜか同じクラスになってしまってるから、新鮮っちゃ新鮮な気分だが。
ガラッ…!
「おはよぉ」
「おはよううう」
なんとか担任が来る前に到着できた。
あっぶないわー、ほんとに。
「お前ら遅くない?」
「しょうがないやん、漕ぐのが遅いんやから」
「…ハア、ハア、ハア」
隣の席の藤もっちが爆速で席に着いた私たちを見て、心配そうに声をかけてきた。
大丈夫大丈夫と軽く受け流す私とは裏腹に、完全に消耗しきってる亮平。
息を切らしながらすごい睨んでくるんだが、無視無視。
えーっと、1限目は…
見慣れない顔ぶれで埋められた教室。
窓ガラス越しに入る涼しい風。
西中の教室は、エアコンの効きが悪くて生徒からは大ブーイングだった。
それは中1の頃も相変わらずだ。
効いてるのか効いてないのかわからないくらいの超低音な作動音。
風速はMAXにしてるはずなんだが、ちっとも風を感じない。
絶対にガタが来てるよ。
この前機械に詳しい松下先生に言ったんだけど、若いんだから我慢しなさいと一蹴された。
熱中症になったらどうしてくれるんだ。
ただでさえ日当たりが良すぎる教室なのに。




