第631話
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公平くんの事件当日、私たちはアキラの家にいた。
チームには新メンバーが加入した。
亮平だ。
キーちゃんが説得したらしい。
私には手に負えなかったが、さすが。
でも、大丈夫かな??
チームの輪を乱さない?
「やっぱり男手がいるよね」
「いざとなったら助けてくれそうやし」
…おいおい
期待されてるぞー、亮平。
最初の事件以降、2人で話す機会が何度かあった。
別に大した話はしていないが、キーちゃんが話せって言うから仕方なく。
昨日はキーちゃんと一緒に亮平ん家に行ったんだ。
インターホン押しても出てこないから庭に行くと、裏の方でガサゴソやっている音が聞こえてきた。
覗くと、RZ350をピカピカにしている亮平がいた。
「なにしてんの?」
彼は振り向いて、空返事をしてきた。
汚れた手で顔を拭いたのか、おでこらへんが真っ黒だった。
(…まさか、乗る気なのか?)
中学時代に乗り回してたツートンカラーのこのバイク。
なにいじってんだよと思ったが、あえて突っ込まなかった。
デジャブな気がしたから。
このバイクは、亮ママが昔乗っていたものだ。
昔といっても、その当時のことは知らないし、想像もできない。
そもそも、バイクに乗ってたことを知ったのは、タイムリープした後のことだ。
車庫にしまわれていたこのバイクを、亮ママがいる世界で見た。
岬町のあの町から、海岸線に沿ってよく走ってたそうだ。
大阪湾を横切り、なぎさ街道を突っ走って、エンジンを吹かしてた。
気さくにそう話すのを聞きながら、想像したんだ。
風を突っ切っている日常のワンシーン。
…結局、イメージできなかったけど。
「乗せてやろか?」
後部座席をポンッと叩いて、ドライブに誘ってくる。
…いや、いい。
危ないし。
ここで死んだら化けて出るどころじゃない。
呪い殺す勢いだ。
だから、やめとく。
そう言うと笑いながら、バイクの掃除を再開した。
当時は不思議に思ってた。
「当時」っていうのは、最初にこのバイクを見た時。
免許も持ってないのに、この日のように車庫から出して、めちゃくちゃピカピカにしてたんだ。
何してるの?って聞いたら、「俺の相棒」とか言い出した。
まさか、亮ママのバイクだとは思わなかったし。
これからアキラの姉貴の車に乗って、現地に行く。
大型のファミリーカーに乗り込み、シートベルトを締めた。
お姉さんはアキラによく似て、スレンダーな顔立ちが眩しかった。
「あんたらどこのガソスタの店員?」
ユニフォーム姿の私たちがおかしいみたいで、上から下まで眺めては爆笑してた。
鏡の前で試着して見た時、私も思ったんだ。
ガソスタの店員っぽいってのもだけど、某コンビニ店員に見えなくもないって思い…
それか佐川急便の人とか。
苦笑いしながら後ろの席に乗り、真っ黒のレザーシートに腰を下ろす。
…うう、なんとも言えないシックな香り。
こんな高級車に乗れるなんてさぞかし金持ちなんだろうなぁ。
「目的地はここね」
助手席のアキラがスマホ内のルートマップを表示する。
カーナビもついてたけど、使い方がイマイチわかんないみたいだった。
運転席のウィンドウガラスを開け、前方から吹き抜ける風。
まだほんのりとあったかい、ショートサイズモカ。
「あんたらの活動って、うまくいっとるん?」
「まあまあ、ですかね」
「まあまあ!?」
「…えっと、じゃあ、わりと?」
「かなーり順調よ!」
「どこからその自信が湧くんや?」
「だって、前回はうまくいったし」
「私らはその「前回」を知らんからなぁ」
ぎゅうぎゅう詰めの後部座席。
ファミリーカーとは言え、運転席を除いて7人も乗ってると、肩と肩がぶつかっちゃう。
「で、これから何が起こるの?」
お姉さんが尋ねてきた。
だから、皆口を揃えて言ったんだ。
これから起こることは、絶対に阻止してみせるぞ!!と片手を挙げ。
「質問の答えになってないよね?」と突っ込まれながら、笑われた。




