第628話
キーちゃんは「自分」についてを話した。
それは亮平からも聞いたことだ。
自分を「幽霊」だと言った理由。
罪を犯したと、言った意味。
この世界、——私たち3人がいる世界は、元々存在しなかった。
そしてその世界で、歩けなくなった。
だから何度も、過去に戻った。
自分が歩ける世界を見つけようとしていた。
たとえそれが、偽りの未来になったとしても。
世界にはたくさんの並行世界がある。
0.0000000000…1単位の誤差で、あらゆる可能性への分岐が、絶えず起こり、生まれ続けている。
けれども、未来の科学者が発見した「ベッケンシュタイン境界」と呼ばれる境界には、決して超えることができない事象面が存在した。
ある科学者は、1つの出来事の変化が、『世界に定められたエネルギーの定量=ベッケンシュタイン境界』を超えてしまうケースがあるため、決して変えることができない結果が、<過去・現在・未来>の平衡状態に於いて存在するかもしれないと憶測した。
それはつまり、世界には「決して変えることができない「A」という事象の特異点」が存在するかもしれないという予想を、導き出すものでもあった。
そこで知ってしまったんだ。
自分が歩ける世界には、“誰かが歩けなくなる世界が生まれる“こと。
そしてそれを理解しながら、それでも、自分が歩ける世界を探し求めた。
その「残響」の1つが「自分」だと、彼女は言った。
もはや、自分がどこにいるかもわからない時空の果てに、今もなお、彷徨い続けている亡霊だと。
学校の屋上で言ってた。
「私に会いに来た」って。
その言葉に嘘はないんだと、繰り返し呟く。
だけど、それをどう受け止めればいいのかわからなかった。
ましてや、何を伝えようとしているかも。
「亮平は、…アイツは、元々存在してた。…そうやろ?」
「そうね」
「せやったら、セカンド・キッドなわけないやん?!だって、…そういうことやろ?時間改変が起こる前、そこに存在しとった人たちはみんな、元々この街に、——世界にいた。…私の言っとること、おかしくないよな?」




