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雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
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第623話


 この事件でもっとも奇妙だったのが、その『証言』だった。


 『祖母が犬2匹を連れて、裏庭で兄弟を遊ばせている横で、小豆を取る作業をしていた。にも関わらず5分後(10分後との報道も)顔を上げたら兄だけが遊んでいて、公平くんの姿が見えなくなっていた。いなくなったとき、2匹の犬も吠えなかった』


 という内容だ。


 絶対身内の犯行でしょ。


 だって証言だけ切り取れば、ものの5分で弟だけいなくなるなんて絶対おかしい。


 仮に誰かが連れ去ったって言うんだったら、かなり周到な準備と計画を立てていないといけない。


 だけど仮に身内の犯行なら、警察犬の追跡が町道から消えていたというのはどういうことだろう。


 事故の形跡もなく、家には祖母しかいなかったって言うし。


 移動手段も限られている状況で、遠くに連れて行くことも出来ないはずだ。



 不思議すぎる。


 だから学校でも話題になったんだよ。


 私は宇宙人も神さまも信じないタチだが、周囲が超自然的な発言をするのも納得できる。


 これがもし“犯罪”なら、その人間は一体どんな手段を使ったのだろう。


 考えれば考えるほど、謎が深まるばかりだった。



 出動しようという話になったのは、この事件が身近に思えたからだった。


 もちろん、最初に取り決めたように、自分たちの身の安全は守らなきゃいけない。


 でも調べて見る感じ、危険はあまり感じなかった。


 感じたのは事件の不気味さと、超自然的な「何か」だ。


 この事件について話題になったとき、綺音はもちろん、他のメンバーの子達も「公平くんを助けよう!」という声が上がった。


 自分たちの活動が認知されるまでは、直接事件や事故に携わるのはやめようという話になってたが、そうも言ってられないという流れになった。


 服を着替え、ブルーのベースボールキャップを被る。


 実は最近、形から入るのもアリじゃない!?という話になって、みんなで考えたオフィシャルロゴとテーマカラーを、改めてユニフォームに仕立て上げていた。


 先週、卸したての新ユニフォームの試着会を開いた時、「タイムパトロールズ」というチーム名は味気ないので、新しく名前を作ろうと話し合いになった。


 それでできたのが、


 『Supersonics(スーパーソニックス)


 いかにも中学生が考えました的な名前だが、一応真剣に考えた…、結果だ。


 意味は、そのまんまだ。


 超音速っていう言葉にあるように、どんな事件にも追いついて、解決してやろう!っていう熱意の表れ。


 でも、ちょっと大掛かりすぎない?って思うこともあった。


 みんなと一緒にあーでもないこーでもないと言いながら、パソコンの前にかじりつきユニフォームのデザインについて考えたのは、めちゃくちゃ楽しかったけど。



 「ね、作戦はどうすんの?」


 「そうやなぁ、庭先で遊んでたってことやから、とりあえず早めに張り込んどくのが良くない?」


 「また犯人捕まえるパターン?」



 今回の事件は未来のデータをあまり参考にしていない。


 なぜなら公平くんの安否は未来でもまだわかっていないからで、データには載っていなかったからだ。



 「キーちゃんはどう思うの?」


 「…え?」



 いつもなら的確な意見を言ってくれるのに、考え事でもしてるのか、ボーッとしてた。


 しょうがないから、みんなで考えまくった。



 「今回は犯人捕まえんでも良くない?5分の間にいなくなったんやろ?なにが起こったんか知らんけど、早めに対処したほうがいい気がする」



 作戦会議に興味津々なのは新メンバーのミッキーだ。


 これからどうすんのかと身を乗り出し、目をキラキラさせてる。



 「リリーはどう思う?」


 「…え?私!?」



 不意な質問にたじろぎながら、犯人を捕まえるか、捕まえないべきか、悩んだ末に、



 「捕まえるべきだと思う!」


 と言った。



 「でも万が一のことがあったら、どうするん?」


 「万が一??」


 「犯人を捕まえられずに、逃しちゃったら」



 確かに、誘拐なんて早々起こるもんじゃないし、今回事前に防げれば、もう2度と起こらない可能性だってある。



 「ほんとに捕まえる?」



 アキラに尋ねた。


 1番良い策を取ろうって。


 犯人を捕まえる必要があるなら、みんなその理由を見つけたかった。



 「公平くんを狙ってるなら、先回りすればいいんやない?地図を見たけど、道は町道の一本道しかない。ってことは、もし犯人が来るとしたら、その道のどっちかしか考えれん。それに、午前中は2台しか通ってなかったんやろ?そうなるともう、犯人はほとんど限定的な範囲にしか、存在することができん。いわゆる「勝ち確」ってやつや。私らの」



 言われてみれば確かに、過去の警察犬のおかげで、連れ去ったルートは特定してる。


 車で町道を通り、この家の前で停めた人が犯人だろう。


 どのタイミングで来て、どういう動き方をしたのかは知らないが、移動手段が車っていうことは割れてる。


 そうじゃなければ、町道から匂いが消えるなんてことはあり得ない。


 だから、車が停まった瞬間に私たちが割って入れば、その段階で事件を止めることができる。



 問題は、どこで待機するかだ。



 「遊んどったのは裏庭やろ?どんな家の作りか知らんけど、町道のすぐ近くに隠れとればええんちゃうん?」


 「隠れれる傾斜とかあればええけど…」



 とにかく作戦は決まったので、目的地まで行き、事前にどういう風に動くかを予行演習した。


 写真も取り、犯人がいそうな場所とかをあらかじめ調べられるだけ調べた。


 事件が発生するのは一週間後。


 一通り作戦を練った後、映画でも見に行かない?という話になって市内に向かった。


 ショッピングモールで買い物したり、駅前のカフェでくつろいだり。


 見たいと思ってた「メン・イン・ブラック4」。


 過去に戻って来れて良かったって思ったよ。


 いつかは、DVDで見たんだろうけどね?


 巨大なLサイズのポップコーンに、占拠した後方の真ん中の席。


 アキラはさっきなにも食べられなかったせいで、ホットドックを3つも買ってた。


 ちなみに、まだ、口の中がヒリヒリする…


 とんでもない店だったよ、…マジで。

 

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