第614話
ゴールデンウィークが明け、空には、時期としては早すぎる積乱雲が立ち上り始めた。
まだ春だと言うのに、日中はクソ暑い。
部活は創設したものの、チーム出動案件は今はなく、何気ない日々を送っていた。
バスケの練習や、課題の多い先生の授業。
帰りのゲーセンや、ファミレスでのチーム会議。
立ち上げた部活の名前は、「未来新聞部」。
いかんせん良い名前が思い浮かばなかったので、とりあえず仮名称にしてる。
新しい仲間ができた。
軽音部の藤田美貴に、剣道部の秋広さくら。
そして、ソフトボール部次期エース候補瀬川凛!
私の友達で、通称リリー。
この3人が入ったのは、ある日の理科の授業の実験で、適当に座って4人で一班を作れ、って先生に言われたのがきっかけだった。
たまたま近くにいた3人をキーちゃんが誘い、グループを作った。
昼前の3限目。
背もたれのない角椅子に座り、机に並べた試験管やビーカー。
薄いブルーの銅イオンにアンモニア水を加える。
するとテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンが生成されて、めちゃめちゃ綺麗な深青色になり、4人一同「すごー!」と口を揃えた。
…いや、1人は例外か。
キーちゃんは眠たそうに授業を聞いてたらしい。
先生の話を無視して、勝手に違う実験を始めたそうだ。
水酸化ナトリウムとメチレンブルーを勝手に取り出し、持参していたポカリスエットを机に置いた。
三角フラスコにポカリスエットと水を入れ、水酸化ナトリウムを約1g計る。
それを混ぜ、ゴム栓をしてから混ぜ始めた。
皆はそれを見ながら、「何してるの?」って聞くが、キーちゃんは黙って「メチレンブルー貸して」って言う。
メチレンブルーって何!?
初めてのことで、3人はさっぱりわからなかったそうだが、飲むヨーグルトみたいなパッケージの表面に、ちゃっかり『メチレンブルー』って書いてあったみたい。
「はい」、ってそれを渡すと、希釈したそれを0.5g入れ、再びゴム栓をして軽く混ぜる。
静置したそれを見ながら、「見てみて」と、3人に言った。
メチレンブルーの青色が消え、三角フラスコの中の液体が、透明になる。
透き通ったグラスを持ち上げて、キーちゃんはそれを激しく上下に振った。
「あ!また青に戻った」
グラスの中で揺れる透明な水が、みるみるうちに青色に変わった。
キーちゃんはこの「青」を、“世界で1番好きな青”と言った。
「この青は、約10秒しか姿を見せない。メチレンブルーは本来青い色素なんだけど、ポカリスエット中のグルコースとビタミンCによって還元され、無色のロイコメチレンブルーになる。フラスコを振り混ぜると空気中の酸素によって酸化して、また、メチレンブルーの青い色に戻る。この反応は、溶液中の還元物質がなくなるまで繰り返し行えるんだ。「青」が透明に戻るまでの″時間″は、さっき言った通り」
約10秒後、フラスコの中の「青」は、透明に戻った。




