第588話
綺ママ直伝の激辛麻婆丼が出来上がり、顔面蒼白となっているアキラをよそに、タブレットをテーブルの上に置き、4人でこれからどうするかを話し合った。
ちなみにアキラは、綺音と同じくナポリタンを作ってもらうことにした。
真っ赤なハバネロの匂いだけでも失神しそうだって言うから。
「さぁて、どいつからやっつけようかねぇ」
別にそこに犯罪者が載ってるわけじゃないぞ綺音。
っていうか、そんなにやっつけたいならあんたが先陣切ればいいじゃん。
私に武器なんか持たせずに。
「嫌や!このキュゥゥゥトな顔に傷がついたらどないしてくれるん??」
「…あのな、私が傷つくのは構わんって言うんか?ん??」
「楓は歩く防弾チョッキのようなもんやから」
「ケンカ売っとんか?!」
「まあまあ、本題に入りましょうよ」
とんでもないこと言ってんぞアイツ。
アキラも笑ってる場合じゃない。
絶対戦わないからな。
いざとなったら、いちばんに逃げてやる。
「とりあえずこれがリスト?」
タブレットの中には、日付と、場所と、発生日時。
事件や事故だけじゃなく、病気で亡くなった人や「人の死」に関する事項とその詳細が、ワード形式でズラッと並んでいた。
「えっと、2012年の欄は…」
補足ということで、2人にはちゃんと伝えていた。
そこに載ってることが、必ず起こるわけじゃないと。
納得はしてくれたみたいで、話は進行していった。
「ひとまず載ってることは一個ずつ潰していこう!」
「…いやいや、学校とかあるやん」
「学校は学校。事件は事件」
「部活は!?」
「部活と人の命、どっちが大事!?」
「神様にでもなるつもりかよ」
「そんなんちゃうて!少しでも助けられたらと思って」
「それで、そのリストの人全員救うんか?」
さすがに無理じゃない?
時間的にも体力的にも。
慈善活動家になりたいのか?
私は反対。
「そこで、思ったんやが…」
キーちゃんは指を指して、ある文字に注目するように言った。
「例えばこの人、池崎諒子さん(88)。死因は老衰って書いてあるでしょ?考えたんだけど、寿命で亡くなってる人は、私たちの力やとどうすることもできない。だけど、そうじゃない人、例えばこの千賀梨香子さん(43)とか、不慮の事故って書いてある。そういうのを助けるのはどう?」
シンプルに言うとこうだ。
寿命や自然死だと思われる人たちに関しては、関与したところで助けられないので、不自然な死、——つまり事故や犯罪に巻き込まれたような人たちの命を、助けられたら。
…いや、言いたいことはわかるが、それ込みで反対って言ってんの。
平日が多いし、出動できるタイミングがあんまなくない?
それに、よく見たらめちゃくちゃ多いんだけど。
1個1個潰していくなんて無茶だ。
「神戸市内に限れば、死亡事故件数や、犯罪に巻き込まれて亡くなる人は、2012年は352件に登る。ただこの「352」という数字は、普通の世界線だと有り得ない。いやあり得なくはないんだけど、あくまで『複数の世界線』で拾ってきた情報だから、その合算した数字が、一つの世界線の中には当てはめられないっていうこと。本来だったら、1年間に起こる数は、50行くか行かないかくらいじゃないかな?」
「…それで?」
「楓が言うように、1つ1つ潰していくっていうのは難しいから、過去の世界線で、発生確率が大きかった事件や事故に絞るって言うのはどうかな?」
発生確率が大きい…?
ようするに、今まで渡ってきた世界で、同じことが起こった事件と事故に限定する。
改めてデータを見直すと、過去に複数回起こった「事件/事故」は、30個くらいに減った。
この中で目星をつけるとすれば…
「あ!あった、この人、早川玲於奈さん(24)。死因は…、刺殺!?」
「殺人、やな」
日付は、5月5日とあった。
しかし実際に亡くなった日は、未明と書いてあった。
理由は死体の発見が5月5日で、いつ殺されたかまでは分からなかったからだ。
「もっと詳しい情報ないの?」
「うーん。私が入手した情報は、あくまでその当時の世の中に出回ってるニュースの情報や記録だけ。もちろん、詳しい記録が残っていた場合は、もっと掘り下げることができるけど…」
なんだ、使えないなぁ。
でも1つだけわかったのは、遺体が見つかった時、死後1週間は経っていなかったということだ。
えーっと、今日が28日だから…、って、やば、ギリギリ1週間じゃん!




