第561話
「不思議に思う?」
「…なにが?」
「私がここにいること」
「う、うん…、まあ…」
「なんて言えばいいのかな。私はあなたの“記憶”を通じてここに来た。あなたの知ってること、経験を通じて」
私の記憶…?
意味が、…わからない。
どういう意味…?
「あなたは知ってるはずよ?未来のこと。今世の中で、なにが起こってるか」
未来…
言ってることは、なんとなくわかる。
彼女は知ってるんだ。
きっと。
私がタイムリープしてることも、これから先、未来でなにが起こるかも。
…だけど。
「どうして…?」
聞きたかったのは、単純なことだ。
彼女は「知ってる」と言った。
私のこと。
私の「記憶」を。
でも、仮にそうだからと言って、話の辻褄は合わない。
そう感じることの方が自然で、違和感がなかった。
だって、ここにいる私は……
「今、考えてることを当ててあげようか」
彼女は一歩前に出て、夕暮れ時の色彩の中に入り、影と光のコントラストの境目を歩きながら、振り返った。
「あなたの記憶の中にあるものが、「私」の中にあるはずがない。…違う?」
言葉の質感は重く、音は鮮やかだった。
自信気にそう聞いてきた横で、私は必死に追いかけた。
「私の記憶…って、一体「いつ」の…」
尋ねようとした。
質問の意味は、私自身よくわからない。
はっきりしてるのは、言葉が向かう先。
私と彼女の間にある、——時間
「何もかも知ってる。あなたが教えてくれたんだ。未来の「私」のことも、過去のことも。あなたは全ての「時間」を繋いでる。最初の世界も、終わりの日も」
彼女は手を差し出した。
一緒に歩いて行こう。
そんな素振りさえ見えて。
「あなたは「海」なの。時間の海。時間の流れつく場所」
「…海?」
「亮平から聞いたはず。あなたは「世界の楔」になった。そのことを」
たしかにそう聞いた。
世界が滅んでしまう。
それを防ぐために、クロノクロスネットワークと同期した。
何度も言うけれど、科学とか物理とか、よくわからない。
ましてや「世界の楔」なんて…
「なんでそのことを知ってるの…?」
彼女がどこから来たのか、それはわからない。
でも、仮に未来から来たとして、なんでそのことを知ってるのか。
それがわからなかった。
「そのこと」っていうのは、つまり、“亮平から聞いた”ってこと。
ついさっきまでの「時間」のことを、どうして——?




