第542話
帰りの道中、たこ焼きを食べながら散歩した。
スーパーに行って、色々買い物した後に。
「すっかり止んでしもたな」
見上げると、青空が少しだけ顔を出していた。
いつもより空が低い気がするのは、気のせい?
頭上を飛んでいく雲。
粒状の「白」が、まだら模様に流れていく。
聞き慣れない潮の音が、町の静寂の中で揺れていた。
地元の海にはない、うらやかな鼓動。
冬だけど、冬じゃない。
そんな空気の長閑さが、背伸びしたように相槌を打ち、水平線沿いの波音を追いかけていた。
ザザァ……
ザザザ…………
波は、そこまで高くない。
むしろ、優しすぎるくらいだ。
風の冷たさに比べたら。
「…お前さぁ、ポテチ買い過ぎ」
「ええやん。好きなんやから」
「かさばるやん?他に買うもんあるやろ」
「例えば?」
「節約気味にする言うたやんけ…。こんなもんばっか買うて」
賽銭に500円も注ぎ込んだ男に言われたくない。
あんただって、コアラのマーチ買いだめしてたじゃん。
それは必要なものですか??
ん?
「これは必要経費や」
「へー。ほんなら私も」
「…はぁ」
ため息混じりに文句を言ってくる。
文句言いたいのは私の方だっつーの。
つかず離れずの距離。
まだ昼にならない、AM11時。
フワァ…
と、あくびが出た。
朝、二度寝するつもりだったから。
「楓」
後ろを振り向くと、海を見てる彼がいた。
砂浜の近くまで降りて、海岸線を歩きながら。
波風に揺れるボーダーラインのシャツと、クセのついた髪。
ズボラな見た目をした彼の影が、静かな町の表面に横たわっていた。
雪と、地面と、ガタンゴトンと響く、和歌山行きの南海本線。
——凪。
「競争せん?」
…は?
……きょう…そう…?
…何を言い出すんだ、急に。
「この荷物、重すぎ」
地面に置いた2つの買い物袋を指差し、不服そうに言ってきた。
だからなに?
受け流すように尋ねると、彼が言う。
「俺が勝ったら、半分こな?」
はんぶんこ?
どっちかを持てと?
…やだよ
須磨海岸よりもずっと背が低く、見渡す限り穏やかなこの岬海岸の浜に降りて、亮平は、「走るぞ!」と、言ってきた。




