第537話
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私たちがこの家に来てから、一週間が経とうとしていた。
「…なあ、初詣行かん?」
「…はあ?」
年も明けて、2014年が幕を明けた。
正月の番組が各チャンネルで流れ、全国各地でお祭り騒ぎだ。
福袋にお年玉。
年賀状に初日の出。
でも正月と言えば、やっぱり餅だね。
さとう醤油の配合は、2年前に完璧に習得した。
餅に付けるものと言えば断然コレ。
きなこでも、餡子でもない。
うちの家族は、みんな下手くそで困ってるんだ。
「餅」というものをまるでわかってない。
さとう醤油を梨紗なんかに作らせたら、とんでもないことが起きる。
醤油はほんとにちょっとでいいんだよ、って何回言っても、いつもヒタヒタになって話にならない。
砂糖は多すぎるくらいがちょうどいいんだ。
あと、餅は絶対に焦がしちゃダメ。
焦げ目がついた方が美味しいと言うが、あれは完全に味音痴が言う戯言だから。
…しっかし、なにが「初詣」だ。
行くわけないだろ。
母さんから連絡がたくさんきてる。
アキラや綺音からもだ。
そりゃそうだ。
部活サボってるんだもん。
インターハイが近いってのに、亮平と大阪に来てるとか口が裂けても言えない。
かといっていい嘘も思い浮かばないから、返答に困ってる。
ひとまず体調不良ということにはしているが…
「年に一回のイベントやで?屋台もたくさん出とるし」
「たくさん出てる」じゃないんだよ、このバカ。
この一週間色々揉めた。
だって、北海道に行こうとか言い出すんだ。
ふざけるのも大概にしろよと思った。
なんでも、ここにずっと居座るのは危険みたいで、拠点を移動しながら、逃亡生活を続けるらしい。
私はそれに反論した。
っていうか、反論しないわけがなかった。
思わず絶句して、言葉が出なかったくらいだ。
逃げ続けたって、ろくなことにはならない。
いっそこっちから出向くのはどう?
と提案したが、
「危険すぎる」の一点張り。
会話にならなかった。
ここが「過去」の世界だとは言え、私にも生活がある。
あんたと一生逃亡生活を続けろって?
冗談じゃない。




