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雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
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第526話


 「お前の話、あれ、詳しいこと聞かしてくれん?」


 「嫌」


 「は!?なんでや?」


 「私の話聞いてくれんし」


 「聞いとるがな」



 聞いてないだろ。


 全然。


 戻らなきゃいけないって言ったでしょ?


 こんなとこ来るなんて言ってない。


 手を離さなかった私も悪いけど、それはあんたが無理矢理引っ張ってきたからで。



 「あんたのせいで、色々ややこしいことになっとるんや」



 元を正せば、タイムリープの中心にはあんたがいる。


 交差点のあの出来事以来、ずっと、あんたの背中を追いかけてる気がする。


 こっちは別に追いかけたくないんだけど?


 あんたを助けなきゃって、何度思ったか。


 今回だってそうだ。


 キーちゃんを困らせやがって。



 「俺は、その世界とは繋がれない。それだけは知っとる」



 彼の言いたいことはわかった。


 わかったというか、知っているというか。


 どう頑張っても、最初の世界の亮平と、この世界の亮平は繋がれない。


 世界に一枚だけの絵が、2度と同じ時間で生まれることがないように。



 「…私なら、行ける」



 それは、咄嗟に出た言葉だった。


 頭の中で整理して、言おうとしたことじゃない。


 ずっと速く、感情が芽生えるよりも先に出た。


 どうしてそう思ったのかさえわからなかった。


 …でも、私になら行けると思った。


 「彼」のいる場所へ。




 「理解しとるんか…?」



 なにを?


 そう思ったけど、わざわざ言葉に変えてまで、聞きはしなかった。


 理解してる。


 なにを理解してるのか、自分でもわからない。


 でもわかる。


 ここまで経験してきたこと、その背景にあるものが、どんなところに繋がっているのか。



 「あんたに話しても、あんたとは別の人間の話やで」



 冷たくあしらうように、そうじゃないと否定するように、あえて私は、そう言い切った。


 その言葉の矢尻がどんな速度で彼の胸に届くのか、見届けようとはしなかった。


 ただ、深呼吸をして、その言葉の持つ質感や、刃の鋭さが、この世界の内側に届くものかを、音の振動の中に託そうとした。


 だから、彼の目を見ることはできなかった。


 そっと口を動かし、視線を落とす。


 そうすることでしか、冷静になれない気持ちがあった。


 本当は、そんなこと思いたくもなかった。


 「彼」は「彼」で、他の誰でもない。


 どんな世界にも、2人は繋がってる。


 そう信じることが、本当にあるべき「真実」だと思いたかった。


 どうしてだろう?


 こんなにも、胸のわだかまりが拭えないまま、視線が動いてしまうのは。




 「わかってる。話したくなかったら話さなくてもいい。でも、お前はそこに行こうとしてるんやろ?せやったら、知っておきたいと思ってな。その「世界」になにがあるのか」



 彼の目を見た。


 昔から変わらない、まっすぐな目を。



 話したってしょうがない。


 そう思うことがこの胸の内にあっても、信じていたいと思うことがある。


 あんたは私に言った。


 諦めんなよって。


 その声を追って、足を動かさなきゃいけない。


 …そう思うことが、どれだけ遠くに感じられても。



 あんたにたどり着きたい。


 追いつかなきゃいけない。


 それは多分、奇妙なことなんだとも思う。


 夢の中のように曖昧で、水のように、掴みどころがなくて。



 世界が終わる日に、あんたはいなかった。


 キーちゃんはずっと、あんたを追いかけていた。


 手が届かない確かな距離に、変えることができない運命があるように。



 でも、いつか、そうならない日が来ると思うんだ。


 この耳の奥で、あんたの心臓の音が聞こえて来る。


 その音が、——リズムが、今日の向こう側に続いてる。


 「信じたい」わけじゃない。


 もちろん、信じたいと思う心が、ここにあるのも事実。


 だけど、きっとそれ以上に、信じなきゃいけないって思う。


 たった一度きりの時間の果てに、触れられる「今」があること。




 ——グラウンド。


 夏。



 彼に伝えなきゃと、必死に思い浮かべたんだ。


 辿り着かなくちゃいけない時間。


 山のような入道雲。


 その真下に舞い上がる白球が、ただまっすぐ、夏の果てに伸びていたこと。

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