死線 第501話
「…ちょっと待って…」
「ん…、…ああ」
生ぬるいコーラ。
話が長すぎて、氷が溶けてしまった。
隣の席で家族連れが談笑している。
駅前のバーガーショップでフライドポテトとナゲットを頼み、かれこれ1時間は経った。
いつもならチーズバーガー一択なんだけど、気分じゃない。
ペラペラとノートをめくる音。
机の上にたくさんの文字。
敷き詰められた記号や図形は、めまいがするほどにややこしかった。
話を止めたのは、難しい単語や文字に、嫌気が差したからじゃない。
「…何その話」
亮平の言っていることは、「キーちゃんの記憶」にもなかったことだ。
…いや、知ってる部分も確かにある。
けど、キーちゃんの病気のことはもちろん、そうなった理由も、原因も、ましてや後半の話なんてとくに、なんのことかわかんなかった。
「…理解はした?」
「できるわけないやろ」
彼が書いたノートを見返した。
最初に会った時に見せてくれたノートとは、また違うノートだ。
急いで書いたのか、ひどく殴り書きされていて、解読できない箇所が多い。
「世界の楔」ってなんだよ…
わけわかんないだろ…
「キーちゃんに直接聞いたわけ…?」
「せやから、千冬は未来ではもう意識が無い。コンピュータの中にそのデータが入ってる。記憶とか知識とか、人格とか」
「この「話」をどうやって…?」
「俺は千冬のデータ、——つまりコンピュータ上にインストールされた「千冬の仮想意識」と、会話しただけや。「会話」って言っても、言葉を交わしたりするわけやない。質問に対して、答えられる範囲の答えが返ってくる。そこで、今の話を知った」
簡単に言うけど、それで「はい」って言えると思う?
冷めたナゲットを口に咥える。
カリッとした食感はもう、ほとんど無い。
バーベキューソースの酸味と甘味とが交互に交じり合い、弾力のある食感の奥でジューシーな肉汁を連れてくる。
中はまだ無事だ。
できたての味じゃないけど、まだ、美味しい。
だけどそんな余韻に浸ってる暇もない。
マスタードソースに変えてもダメだ。
全然、落ち着けない。




