第461話
「肝心なのは、私がもう一度時間を飛ばなきゃいけないってことや」
「時間を飛ぶ…って、そんなに簡単に出来ることなんか??」
「できるわけないやろ!」
「……プッ」
「何笑っとんや?」
「いや、別に」
なに呑気な顔してんだコイツは。
大体焦んなきゃいけないのはあんたの方なんだぞ?!
そりゃ事情を知らないだろうし、急に死ぬとか言われても困るとは思う。
しかし、だ。
人がこんなに焦ってるんだ。
見てわからない??
冗談なんて言ってる場合じゃないの、わかる??
絶体絶命なんだよ。
まじで。
「久しぶりに見た、と思ってな」
「…なにが?」
「楓の焦る顔。中学の頃、よく遅刻しそうになってたやろ?息切らして教室に入ってきてた姿を、思い出したわ」
そういえばそんなこともあったなぁ…
…じゃなくて!!
思い出に耽ってんじゃないよ!
「状況わかっとる?」
「まあ、なんとなく」
「せやったら協力せえや」
「タイムリープできるんやろ?」
「できるけど…」
「けど?」
「そんな狙ってできるもんやない」
「どんなタイミングがいいん?」
「タイミングとかやなくて…」
「気合い?」
「んなわけないやろ!」
「ほんなら、どうやって?」
どうもこうも、よくわかんないんだって。
今までだって気がついたら世界が変わってて、今回だってそれは同じ。
狙ってできるなら最初からそうしてる。
できないから、焦ってるわけで。
「最初にタイムリープした時はどんな感じやった?」
「…最初?」
「なんの前触れもなく、世界を移動したん?」
「…いや、そういうわけやなくて」
最初に移動した時は、私が事故に遭った時だ。
学校に向かう途中で、トラックに轢かれた。
それがトラックだったかどうかは今も思い出せないけど、彼が教えてくれたんだ。
交差点で、事故に遭って亡くなった、って。
「…おいおい、マジか」
「なにが?」
「事故に遭った…って?」
「そうやで?」
彼が驚いていたのは、そもそも私が、その事故についてを知っていたことだ。
事故に遭った2014年。
その「時間」、——つまり1年後の未来から私が来ていることに、改めて驚いていた。
彼が50年後の未来から2013年に戻ってきたのは、2014年の出来事を変えるためだった。
だけど私が、その事情を知っているということも、トラックに轢かれてタイムリープしたということも、信じられない内容だったっぽい。
と、同時に、私が本当にタイムリープしているかもしれないという「可能性」を、さっきよりもずっと真剣に聞くようになった。
いや最初から聞けよという話だが、それだけ、私の身に起こっていることは、科学的に非常識だということだろう。




