第45話
(話を合わせるって、…なんやねん)
(そっちの世界やと、俺は進学してないんやろ?)
(そうやけど?)
(婆ちゃんからしたら、そんな話わけわからんやろ)
(…まあ、ね)
(せやから話合わせぇ。俺ら以外の人に、過去とか未来とか、そういう下手なことは言うな)
亮平が「未来から来た」という話の真相を、婆ちゃんには隠したいみたいだった。
婆ちゃんに限らず、…だとは思うけど。
話し方的に。
理由はわからないが、きっと、言っても信じないからだろう。
私が信じなかったみたいに。
「それにねぇ、悪い子たちばっかりとつるんでたのに、最近はよう家の手伝いしてくれるんよ」
「へー」
「悪い子たち」というのは、地元の暴走族のことだ。
地元じゃ結構有名なグループなんだが、「暴走族」自体死語になりつつある時代に、亮平は関わりを持ってた。
「まだ所属してるん?」
「しとらんわ」
意外だった。
昔は、暴走族に入ってるって言う自分を誇らしげに語っていたのに、グループから抜けるとは。
「なんも言われんかったん?」
「別に。絡んどってもええことないやろ」
大人なんかに負けへん!とか息巻いて、中学生だと言うのにバイクに乗って、そこら中でタバコを吹かして。
身の丈に合わない学ランを着て、ワックスを頭に塗りたくるその姿は、それまでの亮平以上に子供っぽく、見窄らしかった。
もっとずっと昔の頃の亮平は、大きい夢を持ってた。
亮平の親が親だったから、「俺がもっとちゃんとせんといけん」って、気合いれてたもんね。
…少なくとも、誰かを傷つけるような男の子じゃなかった。
「なんか心境の変化でも?」
するとまた小声で、
(今までの俺とは違うんやから、今は「めちゃめちゃ良い子」っていう設定でいけ)
と言ってきた。
「めちゃめちゃ良い子」って、あんたとは真反対じゃないか。
中学3年の頃の亮平を、私はあまり知らない。
亮平は、私の中では中学2年で止まったままだ。
あの当時、亮平は学校に来ない日も多く、私は私で勉強や部活で忙しかったから、絡むことがほとんどなくなっていった。
結局3年に上がる頃には顔も合わせなくなって、卒業の時も会わず終いで、その後もメールのやり取りとか、電話もなかった。




