第43話
ああ、パーティーのことか。
「なんの収穫もなしに帰れるわけないやろ」
「フッ…」
「何笑っとんねん」
「いやすまん、その通りやなと思って」
「こっちは真剣なんやで!?」
「まあまあ落ち着けって。俺に提案がある」
なんだよ。
「しばらく俺と組まへんか?」
…は?
組むって?
右手の親指を立て、それをこっちに向けてウィンクしてくる。
そのアホ面は今世紀1だが、亮平らしいと言えば亮平らしい。
「お前を助けたいんやが、うまく行くかどうか分からへん。でも、何とかして助けたい。そこでや!俺の50年分の知識を使って、冬休みの間に作戦を練りたいんや」
話を勝手に進めんなよ…。
私を助けるとかそう言うことじゃないって。
元の世界に帰りたいだけだ。
「戻っても、事故に遭ったって言う「時間」やろ?」
「…まあ、そうなるんか」
「戻ったら死ぬ。そんなん嫌やろ?」
そりゃ嫌だが、平然と私が死ぬ死ぬ言わないでくれ。
こう見えても、けっこう堪えてるんだ。
「ズボラなお前が?いつもならそんなんヘッチャラや言うてるやん」
「あんたには言われたくない」
「そんな気にするような性格やないやろ?」
「あんなぁ、こう見えても結構繊細なんやで?」
「どこらへんが?」
「どこらへんがって言われても…。私ほど純粋な女の子はなかなかおらんと思うで??」
「はいはい」
「なんなん。なんか文句あるん?」
「「純粋」な「女の子」って、誰のこと???」
「私しかおらんやろ」
「へぇぇぇぇぇ。左様でっか」
「なんか耳に障るな、それ」
「俺はただ本心を述べただけや」
「ほぉ」
「楓のどこら辺が「女の子」なん??」
…こいつ
もう、我慢の限界だ。
コタツから身を乗り出し、背後を取る。
仄かなミントの香りがした。
おそらくシャンプーだろう。
首が無防備だったので、容赦なくホールドした。
「私が今ここであんたを殺したら、未来に戻れるかなぁ?」
「…ちょっ、この剛力女が!」
「いい度胸や!」
椅子の上でのけ反りながら苦しむ亮平の声が家中に響いたのか、婆ちゃんが客間の奥側の襖から現れて、「あらまぁカエちゃん」と明るい声をかけてきた。
「あぁ、ご無沙汰してます!」
にこやかに挨拶を交わし、私の左腕はガッチリ亮平の首を捕らえたままだ。
「ご無沙汰してますやないねん!その手を離せその手を!」
「私は女の子やないから、そんな簡単に離せませーん」
亮平は相変わらずのお調子者で、なにも変わっていないように見える。
この家の空気や、匂い。
婆ちゃんの笑顔まで、全て昔の頃のまま、止まって動いていないようだ。
亮平は少し背が伸びたのかもしれない。
首を絞めている横で、そう感じた。
中学の頃はまだ私と変わらないくらいの身長だったのに、いつの間にか大きくなっている。
昔は、私よりずっと背が低かったのにね?
小学生の頃は、こうして首をホールドしたりプロレス技をかけたら、本気で勝てると思ってた。
だけど今じゃ、ちょっと動かれただけでも引っ張られてしまう。
子供じゃなくなったんだね。
こうして彼の成長した体に触れていると、「昔のままじゃない」んだって、つくづく思う。
…こんなふうに、何気ない時間の中で触れ合えることはもう無いと思っていた。
この客間に、もう一度足を踏み入れることはないと思ってた。
不意に訪れた懐かしい記憶に温かい感情が蘇る。
あの頃の私たちは、今みたいに戯れ合える時間があったんだよね?
ある日から、絡みはほとんど無くなっちゃってたけど、原因はなんだったんだろう。
「話」を始めて1時間は経とうとしていた。
結局、家には帰らずにこの家でご飯を食べることになった。




