第42話
「…っていうことやろ?」
「そうそう、ようやくわかってくれたか。時間かかったもんやわ」
そう言いながら、テレビをつけてくつろぎ始めた。
「昔からお前は変わらんのぉ」と言ってあぐらをかき、「これやから脳筋は…」と疲れた顔をしている。
…こいつ、さっきと全然違うんだが?
急に悪口を言い始めたかと思えば、肘をついてだらしなく椅子に腰掛けている。
いつもの亮平だ。
「そういやその折り畳み椅子、まだ使っとんやな」
白と黒のタータンチェックの柄。
カバーの布の糸はほつれて、ところどころにシミができている。
昔から変わっていない椅子。
私たちの小学生の頃から、亮平が愛用している椅子。
他にも、変わっていないものがたくさんある。
色褪せた紺色のパーカーに、寝癖だかなんだか分からないツーブロックのベリーショートヘアー。
見慣れた亮平のデフォルト。
懐かしいようで、昨日のことのようだ。
「これなぁ。そろそろ寿命やと思うけどな」
って、こんな呑気な話をしてる場合じゃない。
私がここに来たのは「謎」の解明だ。
「私がここに来たんはあんたと話すためちゃうねん」
「俺に会いたい言うたやんけ」
「会いたい言うたんは謎を解明するためや!」
「事故のことやろ?」
「そうや!」
亮平の「話」の真相が少しだけわかったのはいいが、話はちっとも前に進んでいない。
あんたの話が確かなら、「私の身に起こった現象」はどうなる?
過去に「人間そのもの」を移動することはできないんでしょ?
だったら、私が2013年にいるっていうのは絶対におかしいじゃないか。
「そやなぁ。それは俺も分からんねん。お前がここに来るまで色々考えとったんやが、『肉体や精神そのもの』が「時間を移動することができない」っていうのは、科学的に証明されとるからなぁ」
未来では、色んな科学技術の発展があったそうだ。
「個人の過去にデータを送れる」というのは、その中でも最先端の技術で、未だ解明されてない部分もたくさんあるそうだ。
亮平は「技術そのもの」の知識は持ち合わせておらず、あくまで被験者の立場として、「個人のデータの共有」と、「『クロノクロス』という機器、及びそのシステムに於いて出来ること」の概要を知らされていただけだった。
「多分、未来の科学者も驚くと思うで?楓の話を聞いたら。絶対「そんな非科学的で、非常識なことはない!」って言うと思う」
…そんな自信満々に言われても…
解決を期待してきたのに、逆に「非常識」だと言われる始末。
全く使い物にならない。
「今日どうするん?」
「どうするん、って?」
「家に帰らんでええんか?」




