表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
42/698

第41話



 「なにビビっとんねん」


 「昔っから、変わらないな、…お前は」


 「どういう意味?」


 「なんとなく思い出してきたんだ。楓と接するのも久しぶりだったし、「自分」の人格が昔の頃のようにはいかないんだ」





 ?


 なにを言ってるんだこいつは?



 まあ、いい。


 こうして2人でいると、人のことをからかうのが得意だった亮平を思い出し、体がウズウズする。


 からかうならからかうが良い。


 目には目を、歯には歯を。


 私の場合は、「目には目+歯」だがな。



 「プロレス技をかけようとすな!」


 「プロレス技やなくて、これは柔道や」


 「どっちでもええわ!今はとにかく話聞け!」



 亮平の口調が見るからに柔らかくなった。


 というより、いつもの口調に戻ってきた。


 さっきまでずいぶん“お硬い感じ”だったが、いつの間にか話し方が元に戻った。


 謎の標準語が、彼の口から出なくなった。



 「…ぼ、ぼく、っていうか、…まあ、「俺」か…」


 「はぁ?」



 …ゴホンッ、という一呼吸をついた亮平は、机にあった私の水を勝手に飲み、仕切り直した。


 「今から話を始める」的な呼吸のつき方で、今一度姿勢を整え、コキッコキッと、首を鳴らした。



 「スマホの話に戻るとやな、ようするに、50年後の世界の「俺」が、あるデータを送ってる」


 「は?」


 「俺の脳みそに、50年分のデータがダウンロードされとんや」



 データ?


 ダウンロード?


 突然一人称が「俺」に切り替わったと思えば、まーた訳のわからんことを。



 「未来から来たわけやないっていうのは、さっきのスマホの話に例えた通りや」


 「勝手に話を進めんな」


 「まだ理解できんのん?」


 「できるわけないやろ!!」


 「そうやなぁ…、簡単に言うと、未来から来とんのはあくまで「データ」っちゅーことや。俺自身のな」


 「その「データ」っていうんは、具体的に言うとなんなん」


 「記憶や知識、経験、諸々やな」


 亮平が言うには、『クロノ・クロス』という機器が通信できるのは「個人のデータ」であり、例えば、「50年先の私」が「50年前の私」に干渉しようと思った時、まず50年先の私が脳みそにプラグを繋いで、50年前の自分に情報を送信する。


 イメージとしては、メールのやり取りの中で送信先に「画像や文章を送る」、というような感じ。



 「そういう意味やと、「俺自身」が未来から来とるわけやないっていうのは、理解できるか?」


 「…うーん、イマイチ」


 「映画みたいに時間を移動して、この世界に「俺自身」が来るって言うのは、ようするに65歳の爺ちゃんがこの時代にやって来るってことになるやろ?」


 「うん」


 「でも実際は俺は爺ちゃんやない。見ての通りな」


 「うん」


 「「未来から来てる」って言うんは、50年分の情報が「データ」として届いてるって言うことや。この脳みそに」


 「ほー…??」


 「その時問題になるんは、「俺」の情報が全部入ってくるいうことや」


 「ふんふん??」



 次に亮平は、こう説明した。


 どうして口調が変わっていたのか。


 どうして、私のことを「キミ」って呼んでいたのか。


 そりゃ、たしかにおかしいなとは思っていたが、取るに足らないものだとも考えていた。


 そんなことよりも、亮平の話す「内容」の方に、脳みそを全集中していたから。



 「記憶とか経験とかそんなんも含めて、「俺の全部」がや。口調が違うんも、お前の呼び方を思い出せんかったんも、50年先の俺の「人格」まで、この脳みそにアップロードされてるからや」


 「脳みそに、…アップロード」


 「未来の俺は、未来の俺のままや。病院に行って、レンドゲン写真を撮るとするやろ?そこで写し出された俺の「情報」は、パソコンに行ったり写真に現像できたりする。せやけど、「俺自身」はなにも変わらん。パソコンの中に入ったり、写真の中に移動したりはせん。レンドゲン室を出て終わりや。それはわかるやろ?」


 「まあ…ね」


 「つまりそう言うことや。カメラを向けて写真を撮っても、その風景や景色は、断片的な時間とその情報に過ぎん。それ自体を切り取って、別の何かに置き換えることはできん。俺の脳みその中にあるデータを、パソコンの中に送る。シンプルに言えば、そういうことや。未来の俺は「自分の情報」を提供しただけで、その本人は時間を移動したり、この世界に干渉しているわけやない。診察を終えた患者みたいに、診察料を払って普通の生活に戻る。あっちの世界の「俺」は、今この世界で起こっていることを知りようもないし、関わりを持つこともできん」



 そう説明されて、なんとなく、…本当になんとなくだが、意味はわかった。


 「未来から来てる」というのは、あくまで「情報」だけで、50年後の亮平が瞬間移動のようにこの場所に来ているわけではない、ということが。



 話をまとめれば、亮平はある実験の「被験者」だった。


 その実験は、個人の脳みその中にある「データ」、つまり、スマートフォンの中にあるような画像や動画みたいな「データ」を抽出して、それを過去の自分にアップロードする。


 話の流れは、大体こんな感じだろう。


 「未来から来ていない」という言葉の意味は、「未来の亮平そのもの」がここに来ているわけではなく、来ているのはあくまで「未来の亮平のデータ」だけ。


 …つまり「スマートフォンの中にあるデータ」だけという内容を指している。


 もっと簡単に言えば、私たちがメールを送るとき、スマートフォンとスマートフォンはお互いの場所にある。


 「スマートフォンの本体」が、送信先に飛んでいくわけじゃない。


 移動できるのはいわゆるその本体の中にある「データ」だけで、亮平が言う「未来から来た」というのは、「未来の情報を現在に届けた」という意味だ。


 私たちが普段スマートフォンを開いて、ネットのニュースやら天気予報を見るように、物質的に何かが、目の前にあるわけじゃない。


 データという「単位」を使って、未来から情報を届けている。


 目の前にいる亮平が「スマートフォンの本体」だとしたら、その中で閲覧できる情報が、“未来にまで拡張されている”ということ。




 …いや、きっと、そういうことだと思う。


 話をもっと聞いてみなければわからないが、とりあえずそう解釈した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ