50年後の世界 第38話
ーーガラッ!
勢いよく障子の戸を開けたスピードのまま、「亮平!」と叫ぶ。
亮平は、中学の時から婆ちゃんの家で2人で暮らしていた。
私は、中学1年の頃まではこの家によく遊びに来ていた。
だから、亮平ん家の構造はよく知ってる。
海岸沿いの、古ぼけた一軒家。
昔ながらの瓦屋根に、現代には物珍しい、土間の作り。
海がよく見える丘の上に建つこの家は、築50年は下らない。
丘の上まで続く急勾配の坂道をダッシュで登ってきたツケが回って、息切れが激しい。
亮平と再会できた瞬間に、私は膝に手をついて「水を一杯くれ」と懇願した。
テーブルに運ばれてきた水を飲み干し、その場に座る。
見慣れた部屋。
8畳一間の亮平の寝室。
相変わらず暖房の効きが悪く、めちゃくちゃ寒い。
「なぁ、コタツあるとこ行かへん?」
1階のリビングの横に、一際大きな客間がある。
そこは冬になるとコタツを出して、ゆったりできる空間に変わる。
「いいよ」
スタスタ階段を降りて、その客間に行った。
「婆ちゃんは?」
いつもならリビングにいるはずの亮平婆ちゃんが、今日はいなかった。
「自分の部屋だと思うよ」
この家に何度も来てるが、婆ちゃんの部屋だけは見たことがない。
かなり入り組んだところにその部屋があるからだ。
亮平ん家は、色々と特殊で、元々は6人暮らしだった。
一軒家とは言ったが、構造的には、ほとんど複合住宅に近い。
増築に増築を重ねて肥大化した家屋が、この家の複雑なテンプレートを形作っている。
客間に入ってみかんを食べようと思ったが、思いの外酸っぱかったため違うものを頂こうと思った。
リビングに行き、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の横にあるブタの貯金箱に100円を入れると、勝手に飲み物や食べ物を取っていいというルールを、私たちは子供の頃に作っていた。
「ミルクティーないん?」
婆ちゃん自家製のオリジナルミルクティー。
昔は専用の容器に入って置いてあったが、今日はなかった。
「最近は作ってない」
「えぇ」
残念だが仕方がない。
紙パックのコーヒー牛乳とチョコレートを2、3個頂き、コタツに戻った。
テレビをつけても面白そうな番組がないから、消した。
ここに来たのはくつろぐためじゃない。
「話」を聞くためだ。
「それでさ…」
本題に入ろうとした矢先、亮平が先に口を動かした。
「僕の話を聞く気になった?」




