第23話
そう言いたい気もしたが、亮平の方は血相を変えて私の前に立ちはだかった。ここは通さないとばかりに。
「どいてよ」
「どかない」
絶対に動かないと手を広げて壁を作っている。
バカに付き合うのも気力がいるな、これは。
全然どきそうもないから、無理にでも進んでいこうとした。
すると今度は、私の肩を掴んで「一生のお願いだから」と言ってくる。
「ちょっと…、マジでなんなの!?」
亮平はその場にしゃがんで、急に頭を下げてきた。
それこそ、すごい勢いで。
ふざけてるにしては、やけに必死過ぎる。
いきなり頭を下げるなんてどうしたんだ。
「頼む!この通りだ!」
「…」
なんでそんなに必死なの?
私は尋ねた。
だってあまりにも不自然だったから。
冗談を言っているにしては切迫感がすごい。
それに冷静に考えたらわざわざ家に来て、公共の場だというのに人目も憚らず土下座してまで、「話を聞いて欲しい」だなんて。
「とりあえず頭上げなって」
状況が状況だけに、まるで私が頭下げろと言ってるみたいで恥ずかしい。
一旦落ち着いて欲しい。
「話聞いてくれるのか?」
聞かないってことはないけど…。
その気持ちを削いでるのはあんたでしょーが。
「キミが理解できないのは分かる。だから、嘘だと思っていいから、今日一日だけ付き合ってくれないか?」
その言葉にどう返答すればいいのか…。
まあ、別に問題があるわけではないが、とにかく今は自分の身に起きた出来事が何なのかを整理することの方が、優先順位が高かった。
だけど、整理しようにもどうすればいいかわからないし、海まで歩いて来て、何かが変わるかもしれないと期待したけど、なにも変わらない。
手を合わせて「頼む!」と懇願する亮平を見ながら、まあ、いっか、という気持ちになれたのは、自分がまだ夢を見ているかもしれないという気持ちを持っていたためだった。
「未来から来た」という言葉や、幼馴染の奇怪な行動。
そういうものが全部霞んで見えるくらいに、自分の身の回りの世界が丸ごと変わっているという今。
謎すぎる発言を連発する亮平を見ながら、ファミレスに戻ろうよと促した。
ハンバーグセット食べてないんでしょ?
ついでに私にもなんか奢ってよ。
久しぶりに会った亮平との会話は、「会話」と呼ぶにはあまりにも変な内容だったが、どこか、ホッとする気分にもなれた気がした。
亮平は中学を出て、高校にも行かず仕事についていたということを知り合いから聞いていたから、今頃どうしているんだろうと心配してたんだ。
とにかく、元気そうで何よりだよ。
私たちは砂浜でUターンし、冷たい海風から逃げるようにオニオンズの中へ戻った。
そこで、私たちは昔の頃のように話をすることになった。




