第22話
タイトルは、「ベッケンシュタイン境界」とあった。
「…なにこれ?」
「どうせ信じないと思ったから、ノートにまとめておいた」
「なにを?」
まったく話が見えてこない。
なにをまとめる必要があるんだ?
亮平はそのノートを開いてみせた。
「僕が未来から来たっていう証拠がここにある」
…ほんとにコイツ。
ふざけるのもいい加減にしろと思ったが、ふざけるにしては目が笑ってない。
それに、ノートをよく見ると不可解な文字がぎっしり埋まっている。
「2014年1月1日 大杉勉さん 死去 62歳
2014年1月1日 近藤真彦さん 死去 88歳
2014年1月2日 早川玲於奈さん 死去 24歳 …」
なに…これ。
亮平は困惑する私を静止するかのように、「これは…その」と言ってページをめくり始めた。
「ここに書かれてるのは、これから起こることの総まとめみたいなやつ。うまく説明できないけど、今日は12月24日でしょ?この1月1日っていうのは、来年の1日から、この地元の須磨で亡くなる人の一覧を載せてる」
なに不謹慎なことを言ってるんだ、コイツは。
1日に亡くなる?って?
誰が?
「だから、ここに書かれてる人が」
…マジか。
ふざけるにしても度が過ぎる。
幼馴染だから話を聞いていたが、いよいよアホらしくなってきた。
「帰る」
オニオンズから出た私を追うように亮平は走って私の手を掴んできた。
「…なんや」
ほんとにいい加減にしてほしい。
久しぶりに会ったと思ったら、未来から来ただの誰かが死ぬだの、訳の分からないことばかり。
私はそれどころじゃないってのに。
「ハンバーグセットは?食べに戻った方がええんちゃうの?」
息切れしながら私を追ってきて、「もう勘定してきた」と言った。
「頼む!少しだけでいいから真面目に聞いてほしい!」
「真面目に聞いて」とは。
まずはあんたがマジメになれよ。
まったく呆れる。
いつまで経ってもバカなことしかやってこなかったあんたが、突然目の前に現れて「未来からやって来た」だって?
いっそ、本当に未来から来てた方がいいんじゃないか?
中学の頃のあんたがちゃんと真面目に勉強するように。
今からでも遅くないから、「過去」のあんたに説教でもして来なさいよ。




