第20話
亮平はマドラーから手を離してこっちを見た。
こっちを見ると同時に急に謝り始めた。
「突然申し訳ない」って手を合わせて、話聞いてくれるか?って、真っ直ぐ私を見た。
話を聞いてくれるかって言われても…。
「別に構わんけど」
心の中では全然そんな風に思っていない。
とりあえずいろんな問題が片付いていない状態だったし、急に手を引っ張られてここに連れてこられても、納得できるわけがなかった。
だけど整理がついていない頭が思考回路を停止させ、一時的とはいえ、なすがままにされたことが逆に今の状況を作ってしまった。
亮平の言葉を静止できるタイミングも見つからず、あっという間にオニオンズに入ってきてしまったというわけだ。
急にどうしたのか。
亮平はコーヒーを口に入れながら、神妙な口ぶりを見せる。
無理やり私をここに連れてきた姿勢とは裏腹に、その口ぶりは妙に重々しく、慎重だった。
「あのさ、突然こんなこと言って申し訳ないんだけど、今から僕が言うことは、全部嘘じゃないから」
『嘘じゃない』。
そう話す言葉が、私にとっては不自然極まりなかった。
そもそも、亮平が嘘つきだという風に思ったことはない。
昔からヤンチャなやつだなぁとは思ってたけど、嘘つきではなかった。
見栄っ張りではあったけども。
「…それで?」
とにかくなんの用なのか、それだけを聞きたかった。
ここが「現実の世界」じゃないにしても、私に話があって、家にまで来たと言ったんだ。
それ相応の理由があるのだろう。
ちゃんと聞いてあげるから用件を言いなさい。
「じつは、『未来』から来たんだよ。冗談抜きで」
…うーん。
私はその場から立ち上がって帰ろうとした。
バカバカしい。
バカの話に付き合ってる暇はない。
水を飲み干してお店の出入り口に直行する。
全くもって時間の無駄だ。
「おいおいちょっと待って!」
亮平は必死になって私を引き止めようとする。
残念ながら私はサヨナラしたい。
亮平が昔からバカなやつだってことを幼馴染の私は知ってる。
だからこれ以上話してても私にメリットがあるとは思えなかった。
「離してよ…」
めんどくさい。
その素の感情は亮平にも届いたのか、ますます必死になって言葉を紡ぎ始めた。
「頼むからもう一回座って!な!頼む!」
座ったって仕方ないじゃないか。
ほんとはなんの用事があるの?と、その場で尋ねた。
ちゃんと答えろよ、と睨みを効かせて。
「だから、その…」
困った様子を浮かべる亮平。
…いや、困るのはこっちの方なんだけど。
「だから、なに?」




