第181話
波打ち際の水が弧を描き、防波堤のすぐ下で水面を揺らしている。
海辺の塩辛い空気。
湾曲した海岸線に沿って建ち並ぶビル。
すれ違う車。
——それから、人。
夏が少しずつ終わりに近づいているというのに、ビーチにはまだパラソルが残っていた。
白いテーブルやイスに、背の高いヤシの木。
ミーンミンミンミンミン
という蝉の声が、街の喧騒の向こうで聞こえてきた。
海の上で観光船が浮かんでいる。
ポートランドに近づくたびに、街の輪郭が少しずつ大きくなっていく。
神戸大橋があるのは中央区だ。
神戸市でいちばん賑やかな場所。
国道250号線をずっと進んでいくと、野田外浜線に出る。
国道よりも車の通りが少なくなって、自転車でよく通る道だ。
キーちゃんと私にとっては、庭みたいなものだった。
建ち並ぶ電柱と街路樹。
さざ波と蝉の音色。
水色の空気。
神戸大橋の近くにある海は、地元の海とは少し違う。
商業施設や観光地特有の賑やかな街並みに面しているためか、人の往来や雑踏が一段と大きくなる。
海も心なしか賑やかな波音に変化し、七色のクレヨンのようなカラフルな街並みが、荒々しい潮風の中に広がる。
今日と同じようにキーちゃんが漕ぐ自転車の後ろに乗り、ポートランド周辺の海や街に、子供の頃遊びに来ていた。
自転車で15分の道のり。
だけど、魔法のような15分。
地元にはない街の空気や、色。
阪神高速線の高架下をくぐれば、機械仕掛けの活気溢れる街並みが出現する。
騒音と排気ガス。
建ち並ぶ商業ビルやコンクリートの海。
浜手幹線道路の向こう側は、まだ見たことがない「新しい何か」を連れてきてくれる気がした。
視界の果てまでぎっしりと並ぶ建物たちや街の重厚感は、まるで、キャンバスの上に落とした大量の絵の具のように派手派手しい。
それがいつもには無い「色」と「景色」を連れてきて、遠い場所に行ける気がした。
5月の上旬に聴こえる、夏の足音のように。




