第180話
昨日の雨が、嘘みたいに晴れている。
雲は朝風に追い払われるように姿を消して、空と海とが鮮やかな色の向こうに広がっていた。
葉末の雫。
洗いたてのように瑞々しい街。
少しだけ残る雲はとても速く流れていて、坂道を降るスピードと一緒に、世界を動かしている。
キーちゃんはまっすぐペダルを漕いでいた。
どこに行くかを、教えてくれないまま。
亮平はまだ目を覚ましていないらしかった。
自転車のタイヤはアスファルトの上の水たまりを弾き、掬い上げられた水飛沫が街の上を跳ねる。
「飛ばし過ぎ!!」
「しっかり捕まっとけよ!」
時速40キロは出てそうな荒々しい運転。
信号を越え、線路を越え、いくつかの交差点を過ぎた。
須磨浦海岸沿いの国道に出た後、風に運ばれてきた磯の匂いが、波打ち際の波音と一緒に鼻先を掠めた。
ギラギラに反射する海面の陽光。
耳元で、しきりに風が鳴っている。
朝の潮騒と一緒に、流れる景色。
キーちゃんが漕ぐ自転車のスピードは、空を飛ぶように速かった。
真っ青な青天に走る飛行機雲。
その白い尾を掴めるかのような速さで、突っ走っていく。
「ポートランドに行く!」
「ポートランド!?」
海岸線沿いの道を進めば、神戸大橋が見えてくる。
その橋を渡って海を跨げば、ポートランドに行ける。
神戸でも有数の観光名所に。




