第178話
「…うわッ!どしたん急に!?」
「ベッケンシュタイン境界やと!?」
その言葉が、一体どうしたと言うのだろう。
キーちゃんの反応に困惑したまま、彼女の目を追い続けた。
「…いやでも、まさか」
「…なにが?」
私の目を見ながら、…いやいやと自問自答するように手のひらで顔を覆い、その場でぐるぐる歩き始めた。
古畑任三郎みたいな、挙動。
もう一度言って!と、言ってきた。
「ベッケンシュタイン境界」と、再度言い直した。
「…楓、これから時間あるか?」
「…あるけど」
「明日は学校に行かんって、楓の母さんから許可もらえるか?」
「…え、ああ、聞いてみる」
「よし!許可貰えたら、今から出かけるぞ」
「は!?」
「思いついたらすぐに行動したいんや。お前ならついてきてくれるやろ?」
「…え、そりゃまあ、いいけど」
なんだなんだ、急に。
突然の思い立ちにビックリする。
ってか今から出かけるって、どこに!?
外雨降ってるし、夜だよ!?
疑問を投げかけてるうちにキーちゃんは身支度し始めた。
待って待って…!
まだ母さんに連絡もしてない!
キーちゃんに文句を垂れているとさっさとしろと催促された。
…なんなんだ一体。
そんな変なこと言ったか?
…ベッケンシュタイン境界って、
なにがそんなに引っかかったのだろうか。
母さんにラインを送り、明日の学校についてを相談した。
ストレートに言っちゃうとやばいと思ったから、それとなくいい理由をつけて。
返信は早かった。
ゆっくり休みなさいって、ちゃんと明日には帰って来るんよって、優しいメッセージが添えられていた。
「許可もらったよ」ってキーちゃんに言ったら、もう服に着替えて準備万端だった。
慌てて、私も準備することにした。




