第176話
でも、なんとかしたい。
…本当に、目を覚まさないかもしれないんだ。
記憶を思い返したって、どうにかなるわけでもない。
だけど、じっとなんてしていられない。
こうなってしまったのも、交差点のあの朝の出来事も、「夢」なんかで終わらせちゃいけないって思った。
私がタイムリープしているっていう現実が、「夢じゃない」って証明できるなら——
その先のことがまだ見通せなくても、なぜか、そこに向かって進んで行かなくちゃいけないって思った。
「理由」なんて、わからないけれど。
「アイツは、元々の世界の「状態」に戻さなきゃって、…そう言ってた」
「…元々?」
「未来から来たアイツは、私を助けるために来たって言ってた」
「楓を?」
「朝、交差点でトラックに轢かれたって話、したやん?」
「おう」
「未来から来た亮平は、その事故を防ぎたいって言ってた」
「…なんで?」
「「元々の世界」は、私が事故に遭ってなかったって…。自分が過去を変えてしまったせいで、私が事故に遭ってしまったって…」
「待て待て、その「元々の世界」っていうのはなんなん?」
「わからんけど、亮平が言うには、結果が変わる前の「世界」だって…」
「はぁぁ?」
「つまり、私が事故に遭ったんは、世界が変わってしまったからやって…」
訳分からん
そう言って、冷蔵庫の中のプリンを取り出すキーちゃん。
「じゃ、聞くけど」って、そう言って、指摘してきた。
「この「世界」はじゃあ、「元々の世界」ってことになるんか??」
「…どういうこと??」
「…せやから、楓が事故に遭ったんは「結果を変える前の世界」やろ?」
「…うん」
「ってことは、ここは「元々の世界」ってことにならんか?」
「…ああ、まあ」
「で、亮平が事故に遭ったって、その「世界」が、今「現実」になってるって、…そう言いたいんやろ?」
「え?あぁ、そうだ!」
「なんやねんその反応は…」
「真面目に聞いてくれてると思って」
「お前が聞けって言ったんやろ」
ちゃんと聞いてくれてると思い、逆に呆気に取られてしまった。
キーちゃんの言ってることに、なるほど、と思った。
「元々の世界」が「どこ」で、「今」が「いつ」か。
釈然としない頭の中で、この「世界」が「未来を変える前の世界」だって、認識できた。
当たり前のことかもしれないけど、よく分からなかったんだ。
自分が今「どこ」にいるか。
「で、それはわかったが、それでどうせえ言うねん」
「どうしろ、とは?」
「亮平は、これからどうなるんや…?」
それは…
「目を覚まさないかもしれない」、その言葉を、その意味を、キーちゃんには最初に伝えてた。
それを信じようとはしていなかった。
これから亮平がどうなるか、それは私にもわからない。
この「話」がどこに向かうのかさえ、わからない。
…でも




