第171話
「このまま、…目ぇ覚まさんかったらどうしよう」
そればかりが頭にチラついた。
目を覚ますかもしれないという淡い期待が掠れるように、どす黒い不安ばかりが大きくなっていく。
「…さっきさ、病院で言ってたやん」
「…え?」
「…亮平が言ってたって、楓がさ。あれ、どういうこと?」
キーちゃんに説明しなきゃいけない。
信じてくれるかどうかはさておき、話は途中だった。
結果が変われば未来が変わる。
奇妙な「夢」の話。
断片的な情報を伝えただけで、私がここにくるまでに話したことは支離滅裂だった。
ソファに座り、少しだけ頭の中が落ち着いてから、キーちゃんに言ったことがめちゃくちゃだったことに気がついた。
病院を出て、家に向かう道中に雨に打たれながら、「アイツが事故に遭うことを知ってた」って何回もキーちゃんに言った。
でもそれが、まともな話には思えないだろう。
…どう考えても。
「夢を見てたって、…それは信じてくれる?」
「「夢」って、…タイムリープしたって話?」
「…そう」
箸を止め、グラスの中のコーラを飲み干し、テレビの電源を消した。
右手を床につき、片膝を立てて左手をその上に乗せた。
私の「話」を聞こうと、真剣になってくれているようだった。
その上で、スーッと、息を吸った。
「…バカげてる」
キーちゃんなら、絶対私の話を聞いてくれるって思った。
だけど、キーちゃんの反応は思いの外シビアだった。
真剣に聞いてはくれてる。
だけど、…その上で否定的だった。
「そんなんお前の「夢」やろ…?交差点でトラックとすれ違ったからって言うても、そんなん日常茶飯事やし」
「…でもッ、確かに私はあの時、間違いなく轢かれてッ…」
「証拠はあるんか?」
「証拠?」
「轢かれて死んだって、じゃあなんでお前はここにおるねん」
「…それはだから、未来を変えてしまったから…」
「その「未来」って言うんが、イマイチよくわからんのやが」
どう説明しよう…
2013年に戻って、未来から来た亮平に会って、…それから…




