第170話
「なんかオモロい番組しとらんのん?」
箸を口に咥えながらあぐらをかいている。
スカートを履いたまま、黒の長袖インナーを肘まで捲り、前髪を上げてゴムで留めている。
上着のシャツはソファに投げかけられたままだった。
相変わらず、というか、女の子らしくない。
「女子力」は高いんだけどね。
ポンポンチャンネルを変えながら、最終的にバラエティー番組になった。
『世界ふしぎ発見』
ヨーロッパかどっかの国の世界遺産を特集していた。
さー食うぞ食うぞと言いながら、口に咥えていた箸を手に持ち、仕事終わりのビールかと言わんばかりにプシュッとコーラ缶を開ける。
「コーラ好きやな」
「好きっていうか、研究しとるからな」
「…研究!?」
「将来は、コーラを超える炭酸飲料水を研究しようかと思って」
冗談ともそうでないとも取れるニュアンス。
グラスに入れたコーラをそのまま豪快に飲むかと思いきや、ストローを指して飲み始めた。
「なにその可愛い飲み方」
「見んな変態!」
「…えぇ」
美味しそうに焼きそばを食べている。
キーちゃんの焼きそばは絶品なんだ。
野菜の旨味と極上のソースの味。
「焼きそばは、野菜の水分コントロールが肝!」って、いつか言っていた。
ニンニクオイルで1日漬け込んだ豚肉とネギを和えて、トッピングとして最後に加える。
サッと作っているようで、意外と手間が込んでいるこの一品。
正直、母さんが作る焼きそばより好きだ。
こんなこと言ったら、母さん怒るだろうけど。
「心配せんでも、アイツのことや、1週間もせんうちに目ぇ覚ますって!」
「…でも」
キーちゃんは心配していないみたいだった。
…いや、心配してないなんてことはないだろう。
私よりも古い関係の2人は、私以上にお互いのことを知ってる。
人前で弱音を吐かないキーちゃんだから、そう見えているだけだ。
内心は気が気じゃないんだと思う。
3人の中で一番優しい性格なのは、キーちゃんだもん。




