第165話
治療室へ連れられた後、急いで向かった。
ベットの横にいき、亮平のことを呼んだ。
…でも、やっぱり返事はなかった。
「ねえ、…亮平」
「楓、安静にって言われたんやから…」
「でも、亮平が…」
「気持ちはわかるけど」
「母さんは心配やないの!?」
「…心配よ、そりゃ…」
「だったら、一緒に呼びかけてよ…!」
呼んでたら、絶対にコイツは起き上がってくる。
大体、電話で私を呼んだくせに、要件も言わないなんてどうかしてる。
どうせ、眠ったふりをしてるんでしょ?
私にはわかるよ
昔からそんなやつだし。
絞め技で首を極めたときに気絶をふりをしたアンタが、本気で私をビビらせたこともあったもんね?
昔から、冗談がうまい奴だった。
だから、「死んだフリ」なんて十八番でしょ?
ほら、目を覚ましなよ?
なんで、電話であんなこと言ったの?
会いたい、とか
メールでも送ってきたことなかったくせに
アンタに聞きたいことが山ほどあるんだ。
話したいことがたくさんある。
私たち、いつでも会えると思ってたよね?
幼馴染で、家も近くて、お互い海が好きだったし
時々思ってたんだ。
元気にしてるかな、って。
——さっき、…思い出したんだ。
色々。
中学を卒業してからのこと。
別に喧嘩した訳じゃない。
嫌いになったわけでもない。
それなのに、会わなくなった理由。
…私はただ、変わっていくアンタの姿を見るのが嫌だった。
ヒーローみたいに誰にも負けなかった昔のアンタが、別人みたいに変わっていくことが。
ラインの連絡先を消して、いっそ縁を切ってしまおうかと思う時もあった。
それなのに、未来から来たって言う「亮平」が、突然後ろから話しかけてきた。
びっくりしたんだ。
卒業以来、噂程度にしか耳にしていなかったから。
それが「夢」かもしれないと思えても、今こうして目の前に来て、アンタの横にいて、昔のように笑うアンタが、やっぱり、懐かしかった。
もしかしたら、また、昔と同じように話せるかもしれないって、思ったんだ。
ねえ、だから目を覚まして?
また一緒に学校に行こうよ。
海に行って、どうでもいい会話をしてさ…
だからなんとか言ってよ
…そんなとこで寝てないで
「…楓」
「…」
いつから、寝ていたのかはわからない。
目を覚ましたら、夕方になっていた。
ベットに蹲るように顔を埋めていたせいで、顎が痛い。
ハッとなって亮平を見た。
…でも、やっぱり目を覚ましていなかった。




