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第149話
走って向かったんだ。
息切れのする肺を押さえながら、できるだけ早く。
現実が、近づいてくる。
そんな感覚になったのは、生まれて初めてだった。
全部、奇妙な体験のせいだ。
きっと「夢」を見ていた。
——でも、そうとは言い切れないほど、9月10日という世界が「初めて」じゃない気がする。
ゼーハー…ゼーハー…
街の路地を抜けて、いくつかの信号を過ぎ、交差点の前まで来た。
急いで来た。
私の「記憶」が、最後に途切れた場所に。
時刻は、7時30分。
あの時は確か、歩道橋の近くにいた時がその時間だった。
この交差点にやってきたのは、それから多分3分後くらい…かな…?
息を潜めた。
その時間、その「距離」に、近づくために。
信号は青になっている。
あの朝と同じ、人通りがほとんど無い、静かな空間の先で。




