第144話
白い塀に囲まれた坂の上の家の正面に自転車を停め、玄関横の通路口を開けた。
亮平の家は複雑な構造をしている。
本宅と別宅。
古い木造建築に隣接するように新しく建てられた和モダンな家を繋ぐように、2つの家の真ん中に通路が設けられている。
その通路の入り口に鉄製の簡易的なドアが設けられていて、中に入ると、トタン屋根で覆われた2つの家を繋ぐ真ん中のスペースが、靴箱とか洗濯機とか自転車置き場みたいな広い空間を構成していた。
そのスペースは地面が灰色のコンクリートで覆われていて、靴を履いたまま出入りできる。
その通路の中から古い家と新しい家へのアクセスが同時にできるようになっていて、初めて来た人からすれば、どこが正式な家への入り口なのかが、一目で判別できない仕様になっていた。
一応通路口に入る前に、普通の家にあるような本宅の正面玄関が、塀の入り口に正対するように設置されているけど、そこから入るのはおばあちゃんだけだ。
亮平とか私たちは、その場所から入ったことはない。
通路口を抜けて、そのまま本宅の勝手口を開けるのが日課になっていた。
実質、本宅のキッチンに続くこの勝手口が、私たちにとっての「正面玄関」だった。
だって、正面玄関からリビングに行くよりも、通路を抜けてキッチンを経由したほうが、はるかに利便性が良かったからだ。
本宅は和モダンな建築とは言うものの、増築に増築を重ねたようなへんな作りだったから、正面玄関からリビングに行くまでにものすごく複雑かつ細い廊下を伝っていかなければいけない。
亮平の部屋は古い家の方にあったし、古い家に入るには通路口を開けてからじゃないと入れなかったりと、とにかく複雑なんだ。
この家は坂の上ということもあり、家の後ろ側には背の高い石積みの塀が設置されている。
通路口を抜けて歩いて行くと、その塀の内側から須磨浦の景色が拝めた。
それなりに広い庭が広がっている、キャッチボールをするには最適の場所でもあった。




