第133話
「…キーちゃん」
「ナニ?」
私は、確かめたかった。
目の前の「人」が、私が知っているキーちゃんであるということを。
「…花火大会」
「…エ?」
2013年の世界に飛ぶ前、——元々いた世界で、私たちは花火大会を見に行く約束をしてた。
毎年恒例の行事でもあったポートランドの花火は、私たちの青春でもあった。
「一緒に見に行くって、約束してたやん?」
この「世界」で、そんな約束が存在しているかどうかなど、確かめようがない。
そんなことはわかってた。
でも「私」は、私にとっての「現実」は、違う。
キーちゃんの目を見た。
私の言っていることがわかる?!と、問い詰めるように。
「ハナビ…タイカイ…?」
「そう、覚えてる…?」
私はきっと、夢を見ているんだ。
…そう、思いたかった。
未来から来たという亮平も、弟がいるという母さんの言葉も、車椅子に乗っているキーちゃんも、全部。
…だって、こんなのあり得ないよ
ねえ、キーちゃん、いつもみたいにニカッてしてよ
がぶ飲みしたポカリのペットボトル、
履き潰したスニーカー、
男子顔負けのヤンチャな口調。
…なんで、座ったままなの…?
なんで、そんなもの取り付けてるの?
現実離れした医療器具。
体に繋がれている沢山のコード。
やつれた髪。
160キロを投げたいと言っていたキーちゃんは、誰よりも輝いていた。
ひたむきに「夢」を描いて、バカ正直にボールを追いかけて。
その姿は、誰よりもカッコ良かった。
キーちゃんの着る泥だらけのユニフォームは、須磨の夏の「色」だった。
「約束したやん?」
キーちゃんに、着物姿をお披露目しようと思っていた。
花火前の祭りとか、好きな屋台とか、2人で色々見て回ろうと思ってた。
「遅刻すんなよ!」って、言ってたじゃないか。
時間にルーズなのは、あんたの方なのに。
「懐カシイネ」
そんな言葉、聞きたくない。
耳を塞いだ。
嘘だと思いたかった。
…頼むから目が覚めてよ…
…私が知っている世界に戻ってよ…
そう思うことが自然で、正常なのは私の心だ。
おかしいのは「世界」の方だ。
金切り音が頭に響いた。
頭がおかしくなりそうだった。




